衝撃
その翌日の午前十一時頃、僕は父と大型スーパーへ出かけた。
父は土日が休みだったので、週末は二人で買い出しに行くことが多かった。
日用品売り場で足りないものを買った後、食品売り場で母から頼まれた食材を見て回る。
大体いつもそんな流れだった。
僕はお菓子を買ってもらえるのが毎回楽しみだったが、アイスは不思議と欲しくならなかった。
もちろんアイス自体は好物だったが、いつも駄菓子屋で食べる、あのバニラアイスが格別だったのだ。
その日も日用品を購入し、食品売り場へ向かった。
いつも通りであれば、後はお菓子を選んで帰るだけだったが、その日は違った。
父と分かれてお菓子コーナーへ向かっている途中、聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。
「夕飯も買っていかない?」
声のした方を振り返ると、そこには山田さんが立っていた。
昨日見た花柄のワンピースを着て、小綺麗な男の人と手を繋いでいる。
「今日も泊まっていく?」
「うん」
「じゃあ、その分も買っていこうか」
山田さんはとても幸せそうな顔で男の人と話していた。
その笑顔はきっと、僕には一生向けられないものだろう、ということを本能的に理解した。
とても不思議な感覚だった。
あの人は山田さんだけど、僕の知ってる山田さんではない。
山田さんは店番を終えたあと、駄菓子屋とは別の世界へ行ってしまったのだ。
――昨日思ったことは本当だったのだ。
山田さんと男の人はそのまま野菜コーナーへと歩いていった。
僕は離れていく山田さんの後ろ姿を見つめたまま、しばらくその場から動けなかった。
僕の心は今すぐその場を離れたいのに、僕の足は全く動いてくれない。
いつも感じるじれったい気持ちとは真逆のものだった。
あまりの衝撃で頭が真っ白になってしまったのだ。
「そんな所で何してるんだ?」
突然父の声がして、我に返る。
「何でもない」
僕は近くに陳列されていたポテトチップスを手に取り、父のもとへ戻った。
家に帰った後、ぼんやりとしたままポテトチップスを食べたが何の味もしなかった。
ただただ口の中に突き刺さる薄い何かを、僕はひたすらほお張り続けたのだった。
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