第13話 初めての旅行・フローラ視点

「まぁ!ここが隣国最大の市場なのですね。見てくださいマックス、あんなに大きな魚は初めて見ます!」

思わず大きい声が出てしまった。

でも生まれて初めてあんなに大きな魚を見たのだから、つい馬車から身を乗り出して見てしまうのも仕方ないと思う。

「フローラ、窓から身を乗り出したら危ないだろう」

そう言いながらも、支えてくれるマックスが心底愛おしい。



 今、私たちは夫婦で国境に近い隣国の辺境に来ている。

お父様達が爵位を継ぐ前にゆっくり夫婦で旅行にでも行っておいでと言ってくれたので、せっかくだからと前から一度は行ってみたいと思っていた隣国の辺境の街に来ている。

ここは海もあり自然も豊富で、新鮮なお魚や山の幸などが全て楽しめる場所で、自国では比較的近くて食べ物も美味しいと有名な場所なのだ。


 そして何より治安もいい。辺境では珍しいけれど、地元の警備隊がしっかり仕事をしてくれている

からだろう。

初めての旅行なので、今回はそこまで遠くないこちらにお邪魔する事にした。


 領地から7日間、馬車に揺られて隣国へ移動した。道中もマックスと楽しく会話をしながら来たので意外と短く感じられ、あっという間に目的地に着いてしまった。

そして目的の市場に着くと、馬車から降りて少し歩いてみる事にした。

今日の私たちの服装は裕福な商家の夫婦というコンセプトで、マックスが何を着ても様になっているから何度でも好きが溢れてしまう。



旅行中、心臓がもつかしら?



 そして市場には海鮮類や野菜、果物なども置いてあり一日で見るのはとても無理そうだった。

ここはその場で調理してくれる食材もあるらしく、食べ歩きも出来るようになっているんだとか。


 食べる事が大好きな私は、今から浮き足立っていた。

二人でこうして出かけるのは本当に久しぶりだったから、マックスも浮き足立っているのが分かり微笑ましくなった。


 海鮮の串焼きを二人で分け合って食べてみたけれど、出来立てが本当に美味しくて驚いてしまった。

普段、邸でシェフが出してくれる食事ももちろん美味しいけれど、出来立てはやっぱり違うし何よりこうして大好きなマックスと二人で分け合って食べるのが幸せで、さらに食べ物が美味しく感じてしまう。


 色んな珍しい食材を見て回り市場を満喫していると、ふと少し離れた所に懐かしい人達がいる事に気が付いた。

二人は幸せそうに微笑み合い、手を繋ぎ市場の奥に向かって歩いている。男性の腕の中には小さな子供もいた。


あぁ、良かった——


「声をかけなくていいのか?」

私の視線の先に誰がいるのか気付いたのか、マックスが気遣わしげに聞いてくれる。

「いいんです、きっと私が声をかけたらアーロン様は気まずい思いをすると思うので」

そう言って気遣ってくれる夫に私は首を横に振った。


それに、と言葉を続ける。

「ああ見えて彼は臆病なんですよ」


伊達に幼馴染していませんよ?


そう言って首を傾げて笑うと、マックスはむっとした顔をした。

不快にさせたのかと思い、近づき顔を見上げると突然触れるだけのキスをされた。


何が起きたのか分からず驚いて固まっていると、マックスは悪戯が成功したように笑った。そして、

「愛してるよ私の奥さん」

と言ったかと思ったら耳元まで屈んで、


だからよそ見しないでね?


と囁いた。

「っっ!?」


恥ずかしくて真っ赤になって固まっている私に、楽しそうに笑うマックス。

本当にこの人は、私を幸せな気持ちにしてくれる。

この人を大事にしたいという気持ちが、結婚して数年経つが日に日に大きくなっていく。



「フローラ、そろそろ次の場所へ行こう」

そう言って優しく手を差し出してくれる彼に、私は最後に一度だけ後ろを振り返った。



アーロン様、私今とても幸せです。だからどうか、


「お幸せに」


最後にそう呟いて笑顔でマックスの手を取り、入り口へ向かう。



 二度と歩む道は交わる事はないのかもしれない。

私達の進む道は違うけれど、それでもかつての幼馴染夫婦の幸せを願う。








どうかこの想いが実りますように——













end.

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どうかその想いが実りますように おもち。 @motimoti2323

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