ツイている

きと

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 不慮ふりょの交通事故で家族を失った人は、加害者をうらむのだろうか?

 災害で恋人を失った人は、天を恨むのだろうか?

 俺からすれば、どちらも筋違いだと思うのだ。

 不慮の事故。相手に過失がない場合でも、罪に問われるのは事故を引き起こした加害者ではある。それは、事実だ。

 しかし、その場合に本当に悪いのは、加害者だろうか?

 俺が思うのは、こうだ。

 悪かったのは、運だと。

 だってそうだろう?

 加害者は、その時間にその場所で運転していなかったら、加害者にならなかったのだ。

 被害者だって、その時間のその場所にいなかったら、事故にわなくて済んだのだから。

 恨むべきは、その人たちの運の悪さだ。人を恨んでも、その人が死んでしまった時に、やり場のない恨みを抱えることになる。それは、終わらない苦しみを持ち続けることになり、死ぬまでもだえることになる。

 そうならないようにするためには、運がなかったことを恨めば、「仕方なかったな」と思うことができる。幾分いくぶん、気持ちも楽になるというものだろう。

 災害に見舞われた時もそうだ。

 悪いのは、たまたまその場所にいた自分自身だ。

 災害など、人間が制御できるものではないし、巻き込まれるのも運が悪かったという以外なんと言えばいい?

 さらに言えば、病気になるのだってそうだ。

 自分より不健康な生活を送る人間がいるはずなのに、自分自身が病気になるのは運が悪いとしか言いようがない。

 どんなに野菜を取ろうが、運動をしようが、病気になるのはその人の運のなさが原因だ。

 病にしても、恨む相手など自分自身しかいないのだから、それなら運のなさにした方がまだマシだ。

 その点、俺は異常にツイている。

 金がなく苦しい想いをしたこともないし、災害で家を失ったことなどもない。もちろん、大きな病気にもなったこともない。

 特に運の良さを自慢できるのは、宝くじに当たったことだろう。残念ながら、億単位の金が当たったわけではないが、それでも大金だった。

 俺は、その金を特に使うことはしなかった。

 こういう時に、調子に乗っていろいろ大きな買い物をするのは、の骨頂だ。

 大切して、必要な時に備えておくのだ。

 いつ更なる幸運が舞い込んだ時に、準備を万全にしておくためにも。

 俺は、ツイているからまた幸運が訪れるもの時間の問題だろう。

 そうだ、俺は運がいいんだ。ツイているんだ。

 ツイているからこそ、これまでの人生がうまくいったんだ。

 望み薄だった大学に合格できたのも、試験前日に特に勉強した内容が出題されたおかげだ。

 学生時代、希望するゼミに入れたのも、他の人たちがそのゼミに入る人が少なくかったからだ。

 新卒の時、入社した会社が潰れたのも、俺がこんな会社無くなればいいと思ったからだ。

 そして、今。

 電車にひかれた俺の死体を片付けている人たちを、俺は見ている。

 これも俺がツイているからだ。

 新しい職場でいじめを受けていた俺は、死ぬことで奴らに復讐したいと思った。

 そして、電車がホームに入ってくる時。疲れていた俺は、ふらりと体勢を崩した。

 運よく俺は、電車の前に飛び出した。

 俺は、望み通り死ぬことができた。

 な? 俺は、ツイているだろ?

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