エピローグ 森焼イセルは炎上が似合う

●姫、体調はどうだ?


「萬田か。変化はない……、というか以前より快調なくらいだ」


 慌ただしい日々も終わり、緩やかな時間が流れる昼時の事務所。

 イセルは、サラマンダーの萬田に浮遊するコメント欄で話しかけられ、慣れないながらも自らのカソウシンと会話をしていた。


●快調、それは重畳ちょうじょう


「でも、どうしてこんなに体調が良く……」


●あの奇妙な人間は、自らが行使したことを話していないのか?


「奇妙な人間……牙太か?」


●肯定、彼奴あやつは姫を助けるために寿命の半分を捧げた。『これをイセルの寿命にしろ』と言ってな


「なっ!? 寿命の半分だと!?」


●繋がりの深い彼奴でしか代償成し得ない寿命。しかも、失敗したら黄泉の国送りになるような条件で、スキル【同調】を使って姫の調整を実行した。――姫が寿命の代わりに配信の熱を使用できるように、と


「なんで……そんな危険なことを……自分なんかのために……」


●人工的に作られた神ゆえ、我もわからぬ。しかし……敢えて言わぬのであろうな


「敢えて……?」


●では、我は黙る。こうやって喋るのは慣れぬ。それに――彼奴が来たようだしな


 ――というところで、牙太が事務所に入ってきた。

 いつものカラスのように黒いスーツ姿で、気の抜けた表情だ。

 背の高さも相まって、木偶の坊か何かと表現したくなる。


「ふぁ~あ。昨日は徹夜しちまったから起きるのが遅くなった。おはよう……じゃなくて、こんにちはか?」

「き、牙太……聞きたいことが……」


 イセルは、先ほど聞いた話が本当なのか、牙太に問い掛けようとした。

 しかし、萬田が言うように〝敢えて黙っている〟のだったら……と考えてしまう。


(もしかして……もしかしてだが……牙太はこちらに気負わせないために黙っているのか……? そんな奴でもないだろうし、自分もヤワじゃないが……)


「どうした、イセル?」

「いや、何でもない」


 それは不器用なりに牙太の優しさなのかもしないと考え、イセルも敢えて黙っておくことにした。


「な、なんだよ。イセル……ニヤニヤして……」

「何でもないったら何でもない」

「きめぇ~……」

「あ、こら。大切なVTuberに向かって『きめぇ』はないだろう!」

「何だよ。じゃあ、可愛いとでも言えばいいのか?」

「き、牙太がそれを言うと……『きめぇ』だな……」

「うわー、それをお前が言うか。まったく、なんでVTuberなんて好きになっちまったんだろうなぁ……。きっかけの神凪ナルも未だに行方不明だし……」


 牙太は溜め息を吐きながら、事務所にあったテレビを何となく付けた。

 どうやらお昼のニュースがやっているらしい。

 そして、その画面に見慣れた姿が映っていた。


「ん……? VTuber〝森焼イセル〟――つまり自分が映っているぞ? 大人気だな」


 めでたくテレビデビューとなってどこか誇らしげなイセルだったが、牙太の表情筋は氷のように固まっていた。


「どうした? 牙太」

「……ちょっと映っている文字を読んでみろ」

「どれどれ……『問題行動で大迷惑VTuber〝森焼イセル〟』と書いてあるな。ふむ、民草たちの勘違いか」

「エルフのお姫様はスキャンダルに慣れていらっしゃるようで……」


 牙太のスマホが鳴り、それを取るといつもの冷静な秘書子の声が聞こえてきた。


『牙太社長。昨日の件、大炎上しています』

「今、テレビで見た……」

『Twiitter、ニュースサイト、まとめサイトでも大々的に取り上げられています。色々と根回ししていたのですが、どうやら現実世界で目撃された部分がどうしても炎上に繋がってしまったようです』


 冷静に考えれば、現実に怪獣が出現したような状態で、それは最新ARゲームの撮影でしたと強引にやってしまったのだ。

 事前に許可を取っていたり、法には触れないように……または強引に抜け道を使ったりしたのだが、世間は常に刺激を求めている。

 心情的に炎上してしまうのも当たり前だ。

 牙太は反応を見るためにまとめサイトを開いた。


「なになに……『夜に大規模で派手な撮影って迷惑すぎる』『見物人でごった返していた、VTuberって数字のために何をやってもいいのかよ』『これだから異世界ライブは……』と仰るか。うん、ごもっともすぎて反論できない」


 牙太は溜め息を吐いて、機嫌の良さそうなイセルに現実を叩き付ける。


「次の配信内容、どうやら決まったようだぞ」

「牙太、本当か! 配信楽しみだな!」

「謝罪配信な」

「やったー! 謝罪配し…………いや、やったーじゃない。なぜ自分が謝罪しなきゃ――」


 常識知らずのエルフのお姫様は放置して、牙太は再びスマホで通話をする。


「というわけで秘書子くん、謝罪配信の準備を頼む……」

『了解致しました。今後の予定ですが、当事務所の所属タレント、湯蓮ゆはすサキの復帰も控えています』

「あー、はいはい。了解……。この異世界ライブ所属ってことで嫌な予感しかしないけど……」

『それと――私がお探しのVTuber神凪ナルです』

「……は?」


 こうして、また一波乱きそうな雰囲気を感じながらも、牙太の異世界ライブ社長としてのお仕事は続くのであった。




――――――――

 あとがき


 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!


 新作を書きました!


『現実世界でアバターまとって無双します ~モンスターが出現する過酷な世界になったけど、どうやらアバターをそのまま使えるらしく、廃ゲーマーだった俺は配信されて謎の最強存在としてバズってしまう~』


 今度は多くの人に作品を届けたいので、ぜひ新作『アバター無双』を見に来て頂けると幸いです。


 そして面白かったらブクマと★★★を入れて頂ければ、非常に励みになります。

 10万字程度で一区切りまで書き溜めているので、今回はお待たせすることはありません。


 また、その先もプロットの詳細を詰めている状態で、頂いたご意見などはそちらに反映させられると思います。


 ではでは、新作『アバター無双』でお会いいたしましょう!

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異世界種族のV転生 ~こんくっころ~! 異世界からやってきた姫騎士エルフ系VTuberの森焼イセルです! 今日もエルフの森を守るために配信するぞ~!~ タック @tak

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