最終話 土曜日の夜 from 立花春野
土曜日の夜。私の部屋。
「ううう。このままじゃダメだ」
ベッドの前でしゃがみ込みながら、私はそう呟いた。我ながら情けない声ではあるが気にしない。別に、誰に聞かれているわけでもないのだから。
「どれを着ればいいのか分かんないよ」
ベッドの上に並べられた大量の衣類。ドット柄のシャツ。クリーム色のベスト。ブルーのデニムパンツ。真っ白なロングスカート。その他にもたくさん。
一体どの組み合わせが正解なのだろうか。いや、もしかしたら、その全てが不正解なのかもしれない。
「やっぱり、大人っぽい感じ? でも、背伸びしすぎと思われるのも……。じゃあ、あえて子供っぽく……いや、うーん……」
鈍感な先輩のことだ。どうせ、明日のお出かけを、デートだとは思っていないのだろう。せいぜい、「後輩に付き合わされている」くらいの認識に違いない。
それでも、できる限りのおしゃれはしておきたい。だって、万が一ということもあるのだから。そう。万が一。先輩が、私のことを、「ただの後輩」ではなく「一人の女の子」として意識してくれるようになったら……。
『ハルちゃん』
『な、なんすか?』
『僕、今日やっとわかったよ。自分の本当の気持ちに』
『せ、先輩?』
『ハルちゃん! 僕、ハルちゃんのことが好きだ!』
「うきゃああああああ!」
思わずベッドにダイブする私。そのまま、ゴロゴロのたうち回る。
「って、服があああああ!」
見るも無残な姿になる服たち。一体誰がこんなことを! 私だけど!
慌ててベッドから飛び降り、服にできた皺を伸ばす。この日のために買ったものもあるわけだし、丁寧に扱わなければ。
小学生の時、図書室で一人ぼっちだった私に声をかけてくれた先輩。一緒に将棋をしようと誘ってくれた先輩。私に初めてかわいいあだ名を付けてくれた先輩。中学生になっても、変わらない笑顔を向け続けてくれた先輩。定期テストや高校受験の時、付きっきりで私に勉強を教えてくれた先輩。私が高校に合格した時、一番に「おめでとう!」って言ってくれた先輩。
先輩。
ああ、もう。
本当に…………好き。
このデートで、少しでも先輩に……。
でも……………………服が決まらない!
「ううう。このままじゃダメだ」
そうしてまた、振り出しへ。
このままじゃダメだと思うんすよ takemot @takemot123
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