第33話「素顔」
空は青い。
昨日までの雨雲が嘘みたいだ。やっぱり、晴れたら晴れたで、鬱陶しいことこのうえない。
どうしてこんなにも暑いのだろう。
夏は、あまり好きな季節ではない。
階段をのぼりながら、窓の外から見える真っ青な空を眺めて俺はため息を吐いた。
「マイちゃんに、屋上に呼び出されたッスけど、何のようッスかね?」
「さぁなぁ」
昨日の楽しい誕生日パーティーのあと、藤坂からメールが届いていた。
話があるから、明日屋上に来て欲しいとのこと。
断る理由もない俺たちは、こうして屋上を目指していた。
「昨日は結局、メアリー・スーを取り逃がしちゃったな」
「そうッスねぇ。自分のことを知っていそうなのに……どうして教えてくれないんスかね?」
俺たちの目的は、ロールを人間に戻すこと。
まだ、その目的には程遠い。
どうやったら人間に戻るかも、ロールが本当はどんな人間だったかも、何も分からない。
果てしない道のりだ。
でも、不思議と俺たちならできる気がする。
「早く元の生活に戻りたいッスか?」
「……うーん。今のが、楽しいかも」
ちょっと前までの俺だったら絶対に言わないような言葉で、俺はロールに返事をした。
自分で言った通り、今の方が楽しい。
ロールもいて、藤坂もいて、ついでに屋流もいる。
毎日が充実している。
「それは、よかったッス」
ロールの嬉しそうな声を聞いて、俺も嬉しくなった。
屋上に出るための扉に手をかけて、押し開ける。太陽の光が、扉の隙間から差し込んで少し眩しい。
「マイちゃーん、来たッスよ!」
藤坂は、屋上の中心に立っていた。
俺たちの方を見て、穏やかな表情を浮かべている。肩には、俺がプレゼントしたウサちゃんの袋が背負われていた。
こうして、自分のプレゼントしたものが身につけられていると、嬉しいな。
「話したいことってなんだ?」
なんて声をかけながら、俺は藤坂に歩み寄る。
「改めて、お礼を言いたくて。誕生日パーティーはとても楽しかった。昨日が、人生で一番幸せな日だったと断言できる」
「……それはよかった」
足を止めて、俺は頷いた。
そこまで言ってくれると、やっぱり嬉しい。こちらも、色々準備をした甲斐があるっていうもんだ。
「今も、思い出したら目頭が熱くなって涙が流れてしまう……昨日だってずっと泣きっぱなしだった。けれど、本当はそんな表情が似合わないってことは知っているんだ」
藤坂は視線を落として続けた。
「どんな表情で、言葉が相応しいか私にだって分かる。だから、こう言うよ……」
「……!」
顔をあげた藤坂の表情は……。
初めて見る、表情で。
俺たちが、待ち望んでいたもので。
何よりも、美しい表情だった。
「――ありがとう」
とびきりの笑顔で、藤坂が言った言葉とその顔を、多分俺は一生忘れないと思う。
第一章 凡人と鉄仮面と幽霊少女と <了>
最強JK&幽霊娘と過す夏休み。俺の住んでいる町では信じられたものが具現化するらしい。【想造獣】 雨有 数 @meari-su-
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