第十八章 ~考え事 ~

毎日、顕微鏡で遺伝子を観察することで、自信を感じることが出来た。

”人の為に役立っている”と、思えた。


それに、元々、地味ではあるが、観察したり、現象の再現実験をしたりして、データを集めてまとめて発表するという事は嫌いではない。だからこそ今まで、ずっと繰り返すことが出来た。


雄紀の仕事場では、サティアが現れることで、雄紀に取って、決して居心地の良い場所ではなくなってしまった。

しかし、ここは違う。

サティアはいない。


雄紀は、安心して研究に没頭した。


時々、ヴィッディーが助手として手伝ってくれる。

ヴィッディーとは気が合う。

いや、もしかすると、ものすごく気を使ってくれているのかも知れない。

そうだとすれば、ヴィッディーに取って雄紀は、負担になっているはずだ。


『もしかしたら、おじさんから頼まれて、仕方なく・・だったら嫌だ! 』


雄紀は時々、そんな堂々巡りな考え事をしては、精神的に疲れ切っていた。

だから、他者との心理的な距離を置くようになった。


「面倒くさい・・。 」


しかし、同時に、そんな風に考えても無意味であることは解っていた。

所詮、人の心の中なんて分かりっこない。

どんなに、心の中で起きていることを、細かくかみ砕いて説明してもらっても完全には分かりっこない。


だから、相手に、なるべく気を使わせないようにする為には、自分自身が常に一貫した人格を通し、“分かりやすい人”となれば良い。

そうすれば、予測可能な、所謂(いわゆる)、“扱いやすい人”となれる。

しかし、ヴィッディーに対しては、自分自身でない人格を演じるのは嫌だと感じる・・。


と、ヴィッディーが居ない休憩時間には、やっぱり、堂々巡りに考えてしまう・・。

この堂々巡りな思考癖は、中毒性があると笑った。


しかし、ソーハムは違った。

相手が自分をどう思っているかなんて考えていなかった。

自分自身が、相手の為になること、世の中の為になることを考えては、それを実行していた。

相手や世の中の為になる事をしたいと思う気持ちが強すぎて、まわりが、それをどう受け止めるかなんて考えていなかった。

まわりの人たちも、それを理解しているからこそ、ソーハムを慕っている様だった。

そして、ソーハム自身も、そんな風に周りが受け止めてくれていることを知っていたからこそ、みんなを守らなければならないと、責任や義務を感じている様だった。


雄紀には、ソーハムが、とっても大きく思えた・・。

少し心が痛い。


しかし、自分自身と、ソーハムを比較しても仕方がない。 


『僕は、僕なりに頑張れば良い。 僕にしかできない事がある・・。 』


雄紀は、大好きな仕事場に戻った。

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ソーハム @Dariahrose

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