第890話 早すぎるやろ!
私が医学部を卒業して、研修医1年目として働き始めたころ、当時はLINEがなく、「メーリングリスト」として、各自のE-mailアドレスをグループとして登録し、その「メーリングリスト」にE-mailを送れば、登録されている全員にメールが届くようなシステムが動いていた。
卒業学年であった6年次は、情報共有のために私が管理者となって(私はクラス委員の一人だったので)メーリングリストを作った。元が面倒くさがり屋さんなので、卒業後も、何かの時に使うだろう、とそのまま残しておいた。
仕事を始めて半年ほど経ったころだろうか、とある日、メーリングリストからメールが届いた。
「同期の青山さんが亡くなりました。お通夜は今日、○○会館で18時から。告別式は明日の11時から」
一瞬、ひどいいたずらか?とも思ったが、学年を見回しても、そんな悪質ないたずらをする奴はいない。青山さんも、明るく爽やかで、人の恨みを買うような人でもない。
すぐにいろいろなメールが飛び交った。「彼女に何があったのだ?」と。彼女は我々の卒業大学の大学病院で初期研修を受けていたので、大学病院の同期からもメールがあり、どうも自宅の火災で亡くなったらしい、という事が伝わってきた。急ぎ、地域のローカル新聞をネット経由で見てみると、確かに記事が載っていた。自宅の火災で彼女と彼女の祖母が亡くなったらしい。
さすがにハードな研修中の身、しかも関西からでは通夜にも葬儀にも行くことができない。ただ、当地から彼女の冥福を祈ることしかできなかった。
昨日、仕事を終え、自宅でお茶を飲んでいると長男からLINEが届いた。
「中高の同期が亡くなった」
と。仰天した。彼が高校を卒業してから、まだ2か月ほどではないか。
「お通夜とかどうしよう」とLINEが届いてきた。
「お通夜なら、平服でも『取り急ぎ駆けつけました』という事で許してもらえるけど、告別式なら、きっちりした格好でないと駄目だよ」と返信した。
大学の同窓生たちもお通夜に顔を出すようだが、長男は「一旦帰る」と連絡が届いた。いったん着替えて向かうことにしたらしい。時間を節約するために、長男を駅まで迎えに行った。状況を息子に聞くが、息子もほとんど情報を持っていないとのことだった。1学年200人が6年間同じ学び舎で過ごすわけで、息子も、亡くなった同期の子とすごく親しかったわけではないが、顔を見ると「おう!」とあいさつを交わすほどには付き合いがあった、という事だった。
ブラックジーンズとブルージーンズを交代で着ていて、たまたまその日は「ブルージーンズ」だったそうだ。さすがにお通夜とはいえ、「ブルージーンズではまずい」と考えたそうな。
長男がスーツに着替え、彼は普段はネクタイを締めないので、横で一緒にネクタイを締めてお手本を示してやり、また駅前まで車で送っていった。
私の同期が亡くなった時は、私の立場は「同期」だったのだが、今回は「息子の同期」である。もし万が一、息子が亡くなったとしたら、自分はどう思うだろうか、想像しただけでもつらい、というか想像することすら辛すぎる。向こうの親御さんはさぞつらい思いをされているだろう、と容易に想像できる。妻は、「同級生が、自分の子供のことを偲んできてくれるのはありがたい、と思う一面、『どうして友達たちは元気なのに、自分の子供だけ!?』とつらい思いをされているのではないか」と向こうのご家族のことを気にかけていた。言わんとすることはよくわかる。
息子は、お通夜に遅れて訪問したようだが、同期が残っていたようで、同期で夕食を食べて帰ってきたようだった。
朝に息子に少し詳細を聞いてみたが、やはり詳細はわからなかったようだ。
「そんなん、突っ込んで聞けるような雰囲気やないよ」
それはそうである。彼の学友の魂が、安らかならんことを祈るのみである。
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