第881話 以前にも同じようなことを書いた記憶があるが…。

先日、戦慄すべきニュースが報道された。秋田県鹿角市で、人間の損傷した遺体が発見され、それを搬出する作業をしていた警察官二人がクマに襲われ、大ケガをした。現場が危険なため、遺体を回収できない、というニュースである。


クマは非常に頭がよく、自分が食べ残している「エサ」の場所をしっかり記憶しており、「エサ」が奪われようとすると、「奪っていく相手」に対して非常に攻撃的になることが知られている。


この地域では以前にも「山菜取り」に来ていた人が数人遺体で見つかっており、どの遺体も大きく損壊していたそうである。なので、「この地域のクマ」は人間を「エサ」と認識しており、躊躇することなく人間を襲うと考えられている。


実際に躊躇なく2人の警察官を襲い、大ケガをさせたのは「人間を怖がらなくなっている」という証明でもある。警察官が銃で応戦したのかどうかは不明であるが、警察官が持っているリボルバー程度では、よほど急所を撃ち抜かない限り、クマに致命傷を与えるのは難しい。


「クマ」が「頭がいい」というのも、これまた困った事態である。これまでは、クマが人間を怖がってくれていたから、「クマよけの鈴」などが有効だったのだ。もしクマが人間を「エサ」だと思っていたら、「鈴の音」は「エサがここにいますよ~」と知らせているようなものである。とてもではないが、山林に入ることはできない。「飛んで火にいる夏の虫」そのものである。


この森と、近くの集落がどれほどの距離なのか不明であるが、もし人里に下りてきたら、大惨事である。クマは圧倒的なパワーを持ち、普通の「警察力」では歯が立たない。しかも一般庶民は「丸腰」である。人間の建築物とて、コンクリートのビルでもなければ簡単に破壊されてしまう。ビルと言えど、入り口はたいていガラス製である。


クマが人間を躊躇なく襲うようになれば、安全な人間社会を守るためにはそのようなクマを殺していかなければならない(あえて「処分」とか「駆除」という言葉は使わない)。人間側がどう思っているかにかかわらず、「食うか食われるか」の戦いなのである。「弱肉強食」の世界で、人間はクマから見れば、「弱肉」側であるからだ。安易なセンチメンタリズムに浸る余地はないと思う。


そして、今日は、これまた頭を抱えるニュースが出ていた。北海道の奈井江町で、あまりにも安価な報酬が提示されたため、地元の猟友会がクマの駆除を辞退した、というニュースである。北海道では「ヒグマ」である。本州の「ツキノワグマ」とは比べ物にならないほどの大物である。猟友会の部会長がおっしゃっていたが、「米国の特殊部隊と対峙するようなもの」との表現、決して大げさではないと思う。


町は「予算がない」と猟友会側に返答し、結局猟友会側が、「これではいくら何でもやってられない」という事で「町から要請を受けてもクマの駆除に参加しない」という事になったそうだ。


町役場がコンクリート製でピカピカのものだ、というのが何とも皮肉ではあるが、以前に猟友会と警察との間でトラブルが起きていることもあり、猟友会側は、「やりたくはないが、自分たちが動かなければ、どうにもならないだろう」という使命感で動いてきたのであろう。


使命感がある、とはいっても、決して「狩猟」を生業としているわけではない。駆除要請が出れば、本業に穴をあけて駆けつけていたのである。もちろん、駆除作業の際に命を落としても、公的な保証は一切ないのである。従や狩猟免許の取得、更新、銃弾はすべて個人の持ち出し、なのである。それで、二束三文の金額では「やってられない」というのが人情であろう。


都道府県単位で、「人命に危機を及ぼす可能性のある動物」「農業・畜産業に極めて悪影響を与える動物」に対応する専門の部署を用意し、それ相応の金額で人を雇い、道具を用意し、訓練を重ね、実戦に出てもらう、というのが「妥当」な解決法だろうと思うのだが、どうだろうか?


先日YouTubeで動画がupされていたが、林道を走行中の車のドライブレコーダーの映像で、たまたま路肩にクマの子がいたため(車で撥ねたりはしていない)、親グマが車に突進してきた。それなりに車の速度も出ていたのだが、クマと車が衝突し、車がそれなりに破損しても、親熊はびくともせず、さらに車に襲い掛かってきた。運転手は車を慌てて走らせたが、林道なのでそれほどの速度は出せない。それでも50km/hほどは出ていただろうが、クマはどんどん車との差を詰めてきていた。


運転手、助手席の人、そして車は九死に一生を得たようで、何とか逃げ切れたようだった。動画の最後に車が撮影されていたが、衝突したフロントはボコボコ、引っかかれたボディは、金属が切り裂かれていた。たぶんクマが車をひっくり返そうとしたら、簡単にひっくり返ったに違いないと思うし、もしそうなっていたら、運転手も同乗者も、命があったかどうかも分からない。


「クマがかわいそう」なんて言う感情論は不要であると私は思う。自然の摂理は「弱肉強食」で、人間は残念ながら丸腰では「弱肉」の側にいるのである。チームワークと、道具をうまく使う事と、持久力で何とか生きながらえていた「動物」なのである。自然のヒエラルキーを甘く見てはいけない、と思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る