第860話 いい記事だと思った。

今朝の読売新聞。連載として「生成AI考」という大規模な記事を記載している。今回は「医療」と「生成AI」について取り上げられている。


とある頭痛を専門とするクリニックでは、患者さんの問診表から「生成AI」を用いて要約文をまとめる、という作業に用いているらしい。初診時の問診、病歴聴取は非常に重要なのだが、当然のことながら一般の人には、医師が初診時の問診で「どんなことが聞きたい」と思っているかを知らない。なので、細かく教えてほしいところはほとんど情報がなく、あまり重要度が高くない、と思っている情報を詳しく伝えてくれることもある。


「生成AI」が作る要約も、やはりそのような患者さんの「偏った情報」と、「医療用に特化されたAI」を使っているわけではないので、その要約文も完全なものではないそうだ。時に「何じゃこりゃ?」と意味の通らない要約文に苦労しながら、実際の患者さんの診察の際に、要約文を基に足りない情報を問診で埋めていくようにして診察している、とのことだった。


しかし、頭痛専門のクリニックに受診される方は、慢性的に頭痛を自覚されている方が多いであろうから、病歴も長くなりがちであろう。事細かに記載された「主訴」を前もって要約されていると、確かに仕事は楽になるだろうと思った。


「言葉の壁」も「AI」でクリアできるようである。いわゆる「自動翻訳器」としての使い方である。とある病院では、看護師の業務をサポートする「看護助手」にミャンマーやフィリピン」などから来た人を雇い、日本人看護師が「指示」をチャットAIに出すと、それぞれの母国語に翻訳して、看護助手さんに指示が届く。指示を終えると、どのようなことをしたのかをまたチャットで入力し、日本語に翻訳された形で看護師さんに届く、ということをしているそうだ。


「自動翻訳器」としての機能は、最近のスマホでも充実していて、「日本語ができません。英語もできません」というアジアからの労働者の方を診察するときには、スマホを片手に頑張って意思疎通を図るようにしている。最近外来によくお見えになる方はベトナムからの方が多いような印象である。確かに人件費を見ると、東南アジアでも日本より安い労働力、となればベトナムくらいしか残らない。


閑話休題。そのような形で、「AI」が有力なツールとして医療の世界に入ってきているのが今の時代だが、こと「診断」「治療」というレベルでは、まだ、「AI」は医師の補助的役割しかできないようである。


別々の日に「同じ症状」を「同じ文面」で生成AIに入力すると、その日によって、異なる診断が出てくるそうだ。正しい診断は「頚椎症」であった患者さんの訴えを入力すると、「末梢神経障害」「多発性硬化症」などの病名が上がり、正解は25回中1回、との結果だったそうだ。今後例えば、医療系に特化した生成AIができたとしても、100%の診断をつけることはできないだろう。それも当然と言えば当然で、「似たような病歴」をたどる異なる病気、なんて山ほどあるわけだ。


例えば、現在のCOVID-19とインフルエンザとRSVやヒトメタニューモウイルス、症状の強弱に個人差があり、出てくる症状が基本的ないわゆる「風邪症状(鼻汁鼻閉、咳嗽、咽頭痛、発熱)」であれば、抗原検査でもしなければ区別がつかない。ただ、もちろんこれらの疾患は、ほとんどの場合数日の経過で治癒するので、臨床医学では「かぜ症候群」とひっくるめて対応することがほとんど(インフルエンザは、これまでの経緯から、「かぜ症候群」とは外して考えることが多いが、「かぜ症候群」の定義に照らすと、「インフルエンザ」もまた「風邪症候群」の定義を満たす)である。


今回の新聞記事の「良かった」ということは、医療系AIの良い点、現状での問題点、未来での問題点、AIがより「診断」という領域に入ってきた場合に「医師」が行なうべき仕事、ということをきれいに整理してあったことであった。


上記の通り、「臨床現場」に「AI」が入ってくることで、確かに「効率化」が進んだこと、その一方で、「AI」が提示した「答」にはまだ誤りが多いこと、情報漏洩の問題があることを挙げており、その未来には、「医師」との協調で「診断がつきにくい希少疾患」の診断効率の改善などが挙げられる一方で、「患者さん」サイドが「AI」のみを信用し、「AI」とは合わない医師の意見を受け入れられない、という現象を「AI依存」という言葉で表していた。


確かにこれは危惧すべきことであると思われる。現在でも、ネット情報をうのみにし、受診に来ても「医師のアドバイス」を聞かない、ということは時々ある。実際に「健康情報」についても、ものすごく「いい加減」な情報は至る所で転がっていて、実際にそれを真に受けている人も多いのが現実である。


少し脱線しようと思ったが、少し長くなるのと同時に、大切な情報でもあるので、別の機会に書こうと思うが、健康情報については、発信元が「クリニック」であっても、時に「びっくりするようなこと」を書いているところもあるので、地域の中核病院であったり、大学病院などをソースにする方がいいだろうと思っている。


そして、「AI」が進歩した時代での「医師の在り方」としては、①患者さんの気持ちに寄り添う、②「AI」の診断の妥当性を評価する、③治療方針について患者さんと話し合い、治療の責任者としての態度を取る、とされていた。これは「当たり前」と言えば、当たり前のことで、今の医師も行なうべきことは変わらない。


そんなわけで、いい記事だなぁ、やはりこのような記事を作るのは、「新聞」ならではだなぁ、と思った次第である。

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