第854話 右耳の聞こえにくさ、その続き

第846話 「突然の耳鳴りと耳閉塞感。」の続きである。


丁度1週間前に耳鼻科を受診し、その時の純音聴力検査の結果は、右耳については「低音優位の伝音声難聴」パターンであった。自分自身では、Weber試験、Rhinne試験の結果、「キーン」とする高音の耳鳴から「感音性難聴」パターンだと思っていたので、正直結果については驚いた。ただ、前話でも書いたとおり、「自分が自分の主治医になる」のは「最悪の行為」なので、ひとまず、先生の指示通りに薬を使って経過を見ていた。


「アレルギー性鼻炎」と同様の症状を呈するが、抗原検査で有意なアレルゲンとなりそうな抗原を認めないものを「血管運動性鼻炎」と呼ぶ。私は年中、まるで発作が起きたかのように突然に鼻水が「ドバーッ」と出て、くしゃみが止まらないようになることがある。抗原検査を行なったことがないので、「通年性アレルギー性鼻炎」なのか、「血管運動性鼻炎」なのかは分からない。ただ、点鼻のステロイド薬を処方されて、その「発作」が軽減したのは、よかったことである。


右耳の耳鳴りや耳閉感、聞こえにくさは、強くなったり弱くなったりはあるものの、常に存在していた。聴診器を耳に着けると、音が反射しているように右耳の耳鳴りは悪化した。それでも音はそれなりに聞こえるので、明確な心雑音や呼吸雑音を聞き逃した、ということはないだろうと思っている。


とはいえ、昨日の訪問診療、出発前に、朝の申し送りで賑やかな在宅部兼訪問看護ステーションの中で、同行する看護師さんが私の右側から話しかけてきたときは、全く聞き取れなかった。


「すみません。最近こっちの耳が聞こえにくいので、反対の耳で聞きますね」


と伝えて、私自身が「回れ 右」と180度回転すると、よく聞こえたのには驚いた。自分が考えている以上に、右耳の聞こえは悪くなっているようだった。自宅でも、私の座ってる位置から、キッチンが右側にあるので、キッチンから話しかけてくる妻の声も聴きにくい。


前回受診時に先生から「来週また検査しましょう」と言われていたので、今日の仕事終わりに、耳鼻科を再診した。


前回は入浴直前に耳の違和感を自覚し、入浴後に耳鼻科を受診することになったので、大慌てで耳鼻科に飛び込んだが、今日は仕事終わりに直接受診することとしたので、時間的余裕はあった。


受付をして、診察前に純音聴力検査を受けた。検査は、それぞれの周波数の音が、小さな音からどんどん大きくなってくる。音が聞こえた時点でボタンを押し、音が消えた時点でボタンを離す。それをいくつかの周波数で行なうので、検査が順調に進んでいるときは、一定のリズムで検査が進んでいく。ところが、今回は一部、そのリズムがずれたところがあった。その前の音が消えてから、新しい音が聞こえてくるまでの感覚がずいぶん長かったのである。「あれっ?」という違和感を感じた。


最初はヘッドホンで「気導」を、その次は耳たぶの後ろの骨(側頭骨)に骨伝導イヤホンをつけて「骨導」を測定した。今回は前回とは異なり、「気導」より「骨導」の方が明瞭に聞こえた。前回の検査とは全く異なった印象だった。


検査を終えてしばらくすると、診察室に呼び込まれた。


基本的な耳、鼻の視診を受け、おそらく耳鼻科医にとってはルーティーンになっているのだろう、鼻腔に薬を噴霧し、検査結果の説明を受けた。


検査結果は先週と比べると明らかに右耳の聴力は低下していた。気導は全体的に低下しているだけではなく、4000Hzの音の聞こえがひどく悪くなっていた。「あれっ?」と思った違和感はこの部分の検査だったことが分かった。


4000Hzの聴力が目立って低下している純音聴力検査図を”c5-dip”と呼んでおり、典型的には感音性難聴の中でも、「騒音性難聴」で見られるとされている。国試レベルなら”c5-dip”=「騒音性難聴」である。


実際は騒音性難聴だけでなく、それほど重症ではない感音性難聴全般で見られる所見だそうだ。気導に比べて骨導の方がよく聞こえており、やはり気導<骨導の「伝音性難聴」パターンであったが、骨導でも“c5-dip”は気導の落ち込み方ほどではないが、やはり落ちており、「感音性難聴」の要素も持っているようである。「伝音性難聴」の要素が強い「混合性難聴」であるようだ。


「伝音性難聴」の原因検索の一つとして、両側の「耳管通気法」を行なった。


先生曰く、


「鼓膜もやや赤みがあるし、耳管通気でも狭窄音が聞こえ、耳管狭窄もありそうだと思う。咽頭周辺の炎症が影響しているのでしょう」


とのことだった。


そんなわけで、抗生剤、去痰剤、点鼻ステロイドを処方され、2週間後をめどに再診、ということとなった。


40代の頃にも何度か耳の不調を自覚し、勤務先近くの耳鼻科を受診したことがあったが、そのころは純音聴力検査は見事な「正常パターン」だったことを覚えている。それから考えると、私の耳も年を取ったのだろうか、患側、健側とも高音域の聴力は気導、骨導とも同程度に低下しており、加齢性の聴力低下が始まっていることを示唆している。


内科診察で、機械を使わずに身体所見を取るときには、大前提として「自分は正常」というものがある。「視野」であったり、「筋力の測定」であったりと、なにか「基準」となるものとの比較で正常、異常を判断する場合、「正常」の基準は自分自身の身体なのである。なので、自分の身体に異常が起きると、いろいろと不便なことになる。


今回の右耳の聴力低下、今後どうなっていくのだろうか?原因となる疾患が明確となっていないこと、1週間の経過で悪化していることを考えると、どうなっていくのか、少し不安である。おそらく体調を崩して受診される方も、こんな気分なんだろうなぁ、と思う次第である。

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