第853話 どういうことだ?何か大きなことが隠されていないか?

『第850話 つまり、AHAの「PERASプロバイダコースに合格させよ」ということですね。』の続きである。


私のスマホに「医療支援アプリ」を入れているのだが、そこでも医療にかかわるニュースを手に入れることができる。この件に関して、共同通信医療ニュース 4/23付のものを読むと、非常に大きな違和感がわいてきた。


裁判長が「療養指導義務を履行したとは言えない」と結論付けていたが、この両親の状況は、この記事では「両親は医師の助言が無ければ器具交換さえ満足にできない状態だった」とある。


この児は、以前参照した記事では気切カヌラに人工鼻をつけていた写真が貼付されていたが、この記事では、


「2018年2月に生まれ、呼吸がしにくい喉頭軟化症と診断され、気管切開手術を受け人工呼吸のためパイプ状の医療器具をつけた。退院翌日の同年(2018年)8月20日、自宅で寝返りを打った際に人工呼吸の回路が外れ、低酸素症となり、意識が戻らないまま21年2月に死亡した」


とあった。


人工呼吸器を付けているならなおさら、しっかりとした指導を行ない、「家族が安全に管理ができる」と確認できなければ、退院の許可は出さない。急性期病院にはもちろん、「入院期間の制限」はあるが、同時に、重度の障害を持つ子供を療育する施設も存在する。なので、「入院期間云々」となることが想定できるのであれば、ごく早期から、そのような施設への打診をかけるはずである。


当該病院は「市立病院」であり、公的病院の多くは大学病院からの「医局派遣」で医師をやりくりしているところが多い。その診療科に所属する医師すべてが「医局派遣」ではないにしても、大学病院からの医師派遣はあったであろうと推測される。病院の場所を考えると、言葉は悪いが、「島流し」ではなく「栄転」と認識されるであろう病院だと思われる。


そのような病院が、このような迂闊なことを本当にするのだろうか、と疑問でならないのである。


外部の人は、「病院では医者の言うことは絶対」だと思っている人が多いと思うが、現代は「チーム医療」の時代である。もちろん「他職種」の人が、「医師」に意見を述べることに抵抗感を感じることはあるだろうとは思うが、各職種とも、「どう考えてもおかしい」という事は、医師に意見することが普通である。


医療にかかわるスタッフは皆、それぞれの分野で公的な資格を有しており、それぞれが「その道のプロ」なのである。「プロ」が「医師からの指示」を「どう考えても変だ」と思えば、当然、彼らは彼らの「プロフェッショナリズム」にしたがって、医師に提案をしてくるわけである。


その意見が「適切」と思えば、「ありがとうございます。おっしゃる通りですね。指示を変更します」と答えるし、「標準」とはズレがあっても、このようにする方が患者さんの利益につながる、と思えば、「おっしゃることはよくわかります。標準からずれていることも承知していますが、かくかくしかじかの理由で、こうすることが患者さんの利益になると考えて、このように指示しています」と、自分が何を根拠にどう考えて、その指示を出したのかを理解してもらえるようにしている。


未だに「医師の指示に従え」的なふるまいをする医師がいないわけではないが、それは少数派であり、チーム内で出てきた意見に対して、是々非々で判断し、「医師」としてどのような考えで「このような指示」を出しているかを理解してもらうようにするのが一般的である。


少し話はズレたが、仮にこの児を医師が「退院!」と決めても、特に看護師サイドからは強いブレーキがかかるはずだと思うのである。「とてもじゃないが、ご家族がこのような状態では退院させられない」という意見が出てくるのが「普通」である。人工呼吸器を付けていて、「自分たちでは回路を維持できない」という事であれば、どう考えても「退院は無理」である。仮に「退院」させたとしても、早晩このような悲劇が起きることは火を見るより明らかである。


なので、そのような現状であるにもかかわらず、この児が「退院」を許可されたこと、他の職種のスタッフからも強い制限が掛かった様子がなさそう(人の命がかかわっていることである。普通なら、強い抵抗が出るはずである)、というところに「ものすごく深い闇」があるように思えてならない。


因みに、法的強制力を持って入院を行なう事ができるのは精神科の分野での「医療保護入院」「措置入院」、およびその周辺にかかわるものだけである。


精神科以外の診療科では、「今退院したら死んでしまうよ」と説得しても、「それでも退院する!」と言い切って退院しようとすれば、それを止めるすべはないのである。


カルテに


「再三の医師、スタッフの制止にも関わらず、強く退院を希望した。患者さんは幻覚、妄想に支配されている様子はなく、スタッフの制止の理由を理解したうえで、なおかつ強硬に退院を主張されている。これ以上院内に押しとどめることは「監禁罪」に問われるものであるため、やむなくご本人の希望に沿って退院とした。異常があれば、速やかに当院、あるいは信頼できる他の医療機関を受診することを本人に伝えた」


と書くぐらいしかできることがないのである。


という事で、「真相は闇の中」なのである。裁判長は


「療養指導義務を履行したとは言えない」


と結論付けているが、それは本当に指導をしていなかったのか、指導をして、「できる」と返事はしたものの実際はできなかったのか、指導をしようとしても、「できる」と言って指導を真剣に聞いていなかったのか、提示された情報だけではわからない。


カルテに記載がなければ、証拠は残らない。という点でも、それぞれの側から聞き取った話と、カルテ記載を突き合わせた判断だと思うが、病院側としては極めて不本意な判決となったのかもしれない、と思う。


カルテ、しっかり書いておかないとなぁ、と改めて思う次第である。

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