第847話 ベンチがアホやから…

「ベンチがアホやから…」という発言で、プロ野球を引退に追い込まれたのは元阪神のピッチャー江本 孟紀氏である。小学生のころの記憶になるので大変申し訳ないが、氏のベストセラー「プロ野球を10倍楽しく見る方法」に、この発言のことについて記載があったと記憶している。


氏は取材陣に対して「ベンチがアホやから、選手は野球ができひん(できない)」と発言したことはないそうである。もちろんそういう思いが無かった、というわけではないが、真相は、氏がロッカールームで怒りに任せて、「くそっ!」「アホっ!」とブツブツ言っていたのを、取材記者が氏の思いを汲んでかどうかはわからないが、そのような発言をしたかのように「見出し」に使った、という事だそうだ。


それはさておき、リーダーシップをとるべき人たちが、いい加減で、適当で、責任感もない、とくれば、下にいるものは、そのようにも言いたくなるものである。その気持ちは大いに理解できる。


ソースは共同通信4/18付け。Yahooニュースより。


<以下引用>

 武見敬三厚生労働相は18日の参院厚労委員会で、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」の利用率に関係なく、12月に現行の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化すると述べた。政府は12月2日から健康保険証の新規発行を停止し、廃止すると既に決定している一方、3月のマイナ保険証利用率は5.47%と低迷している。

<引用ここまで>


もう、「内閣(あるいはお上)がアホやから…」としか言いようがない。


現実として、現行の保険証の不正利用が保険診療の中で大きな問題になっているのは理解しているつもりであり、「保険証の不正利用」を防ぐために「顔写真」のついた保険証として「マイナ保険証」を推奨しているのはわからなくはない。


「マイナ保険証に切り替えます」とアナウンスしてから、どれだけの時間が経ったのだろうか。3,4か月という話ではなく、「年」の単位でアナウンスしていたわけだ。にもかかわらず、「マイナ保険証」の利用率が5%台、という事実を見れば、次に考えることは、「強制的に既成事実を作る」という事ではなく、「なぜここまでマイナ保険証の利用が伸びないのか」、その理由を探り、改善を加えるのが先なのではないだろうか、と私は強く思うのである。


「利用率が伸びない」のには、必ず理由があるわけである。もちろん細かいことを言い出せばキリがないのだが、本質としては、「マイナンバーカード」制度そのものが国民に信用されていないこと、「マイナ保険証」の使い勝手が極めて悪いことの2点に収束するのではないか、と思うのだ。


医療機関には、もちろん病状の安定した方が、定期受診で来られる場合が多いが、「具合が悪くてどうにもならない」ような状態で受診される方や、救急外来では「意識障害」で来る方も珍しくはないのである。身体がつらくて、フラフラになりながら受診した人や、意識障害の人に、どうやって「マイナ保険証」を読み込む機械のところまでやって来させて、暗証番号入力や、顔認証をするのだろうか?交通事故で意識障害、顔も血だらけ、という人は「マイナ保険証」を持っていても「使えない」わけである。


「受診ごとにマイナ保険証を確認し、確認できなければその日は10割支払い、確認ができた時点で後日返金」という制度も厄介である。ネット情報を見る範囲では、マイナ保険証をうまく読み込めないトラブルが発生するのは珍しいことではないようだ。「機械が上手くカードを認識できなければ10割負担」なんて、罰ゲームか、質の悪い「ガチャ」である。


私が一番卑怯だと思っているのはデジタル庁に対してで、マイナンバーカードについては、「マイナンバーカードに関わるいかなるトラブルも、デジタル庁はその責を負わない」と一番最初に「逃げ」を打っているわけである。そんなシステムを「信用しろ」と言っても土台無理な話である。


もともとマイナンバー制度とマイナンバーカードを作る、という段階では、おそらくそのカードを「保険証」や「免許証」にも使う、という話はなかったはずだと記憶している。マイナンバーの目的が、「国民」の「隠し財産」防止、「脱税防止」という話で出発していたので、「マイナンバーカードの作成は任意」であり、「マイナンバーカードを正当な理由なく見ることは犯罪』と定義されたため、マイナンバーカードを触ることができるのは原則本人だけ、となったように記憶している。


そこにデジタル庁が、マイナンバーシステムとは全く立て付けの異なる「健康保険制度」をくっつける、と決めたことから無理が出てきたわけである。保険証は当然医療機関では事務員が確認していたわけである。人が確認していたからこそ、「意識障害」で患者さんが搬送されても、事務員がERに出向き、確認できたわけである。他人が見ること前提の「健康保険証」と、他人が見てはいけない数字が書いてある「マイナンバーカード」をくっつけよう、と考える時点で、もう発想がダメダメ、全く笑えないギャグである。とても「深慮した」とは思えない。


この提案をした際に、デジタル庁が綿密に現行の健康保険証が、現場でどのように使われているのか、ERの現場など、様々な状況を想定して熟慮を重ねた、などということはなかろう。確か「青天の霹靂」のように決定されたように記憶している。ただ、デジタル庁にとっては、そのような細かな配慮をする必要はないわけである。「デジタル庁は一切の責を負わない」とされているわけであるから。


国会議員は「特別公務員」という扱いになるはずなので、健康保険もそのようになるはずだと思う。とすれば、国会議員の「マイナ保険証利用率」を出せばよいと思う。確か「国会議員のマイナンバーカード保有率」が報道されたような記憶があるが、それほど高くはなかったように記憶している。おそらくマイナ保険証の利用率も、良くて国民平均のいくらか上、くらいだろう。自分たちが使いもしないものを、「人に強制」するなよ!と思ってしまう。


「ベンチがアホやから…」ではないが、政治家や上級官僚を含めて、「お上がアホやから…」と言いたくなる今日この頃である。


「国家百年の計」という言葉があるが、そのような「長期ビジョン」に立った国家運営、システム構築をできないものなのかねぇ。「政治家」が全員高い能力を持っているとは思わないが、「官僚」はエリートだろう?長期ビジョンを持てないのかねぇ?

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