第844話 本質は変わっていないのだと思う。

ソースはFNNプライムオンライン。Yahooニュースより


<以下引用>

神戸徳洲会病院で、糖尿病患者が入院中に適切な治療を受けられず死亡した問題で、院長でもあった主治医が、入院患者の約3分の1を、1人で担当していたことがわかった。


神戸徳洲会病院では、糖尿病で通院していた男性(70代)が2023年9月、新型コロナで入院した際、糖尿病であることを見落とされてインスリンを投与されず、入院から10日後に死亡した。男性の主治医は当時の院長で、遺族には、死因を「肺炎」と説明していた。


その後、前院長が当時、入院患者の約3分の1にあたる、55人の患者を1人で受け持っていたことが明らかになった。


兵庫・神戸市は、多くの患者を抱え込み、不十分な医療体制であったとして、抜本的な見直しを求めた改善命令を出していて、病院側は「改善計画書」で担当患者数の上限を明記したという。

<引用ここまで>


現時点での神戸徳洲会病院のHPを見てみると、常勤医は数人しかいないようである。許可病床数は309床となっているが、それだけの病棟を支えるには医師が足りないようである。


極めて残念なことではあるが、徳洲会グループでは医師が少なくても、「救急を断らない」ということが最優先であるため、一人の医師がとんでもない数の患者さんを担当することは、少なくとも私が研修医の時代には珍しいことではなかった。


私が修業した病院でも、私が病院見学に訪れたときは、一般内科・呼吸器内科で、師匠と後期研修1年目の二人で70人の急性期の患者さんを担当し、徳洲会グループ伝統の、僻地離島研修で2か月お世話になった病院では、その前年は、内科医2人で、80人の入院患者さんを管理していたのである。


おそらく、当時の神戸徳洲会病院院長も、古くからの悪しき伝統を経験した世代であろう。病棟管理、外来業務、救急外来、場合によっては訪問診療も担当していれば、どう考えても、患者さん一人一人に目が届くわけもない。


徳洲会グループが設立、成長していった1980年代は、まだ「医者の診察を受けることができればOK」というような時代だったので、ある意味、そのころからの悪しき伝統が続いていたのだろうと思われる。


創立者の書籍を読んだことがあるが、2番目の病院、大阪府大東市に「野崎徳洲会病院」を開設した年の正月、徳田氏と、氏が大学病院在籍時の、氏の医局の先輩(のちの野崎徳洲会病院初代院長)と二人で、1日に500人近い患者さんの外来診療を行なったそうだ。医局の先輩が、「徳田君。おれ、一日でこんなにたくさん患者さんののどを診たことはないよ」とへとへとになりながらおっしゃられていた、という記載を覚えている。


なので、院長が55人の入院患者の主治医だった、と聞いても、私の感想は「そうやろうなぁ、本当に大変やったやろうなぁ」というものである。「そんなん無茶苦茶や、おかしいがな」と、もちろん思うのだが、その一方で「徳洲会グループ」は一部の「研修医に人気のブランド病院」を除けば、似たり寄ったりであろう、と思っている。


ただ、これはある意味、日本の医療の縮図でもあるのだ。優雅にゴルフやテニスを楽しんでいる医師がいる一方で、「過労死」してもおかしくないような働き方をしている医師が、救急医療や急性期医療を支えている、ということである。


医師の世界は色々と歪んでいて、26歳の専修医が過労で自殺した病院も、労働時間はハチャメチャなもので、業務量も莫大なものであったわけだ。確かこの病院も神戸の病院であったと記憶しているが、特定の有名研修病院を除いて、基本的には病院は医師不足であるのが現状である。


以前にも書いたが、大学病院にはたくさんの医師が集まっているが、それだけの医師全員に給料を払うと、病院の経営そのものが成り立たなくなるため、大学病院で診療に当たっている医師の中で、給料をもらえている医師は多くない。「高度な技能習得」や「専門医習得」と引き換えの「無給医」であったり、大学院生として大学側に授業料を払っている、「医師免許」をもつが病棟診療を支えているわけである。いろいろとおかしなことのある世界である。


私の修業中、特に後期研修医時代は、先輩、同輩、後輩と「兵隊」となる後期研修医がある程度の数(多い時には後期研修医及び、後期研修医終了直後の医師が8人ほど)いたのと同時に、指導医レベルの先生方もそれなりにおられたので、一人当たりの入院患者数は25~30人程度で落ち着いていた。それでも、徳洲会の後期研修、結構きつかったと記憶している(先輩方の「伝説」に比べると「甘々」ではあるが)。


積極的に救急車、急性期患者さんを受け入れている病院は、多かれ少なかれ、似たような状態になっているのではないだろうか、と推測する次第である。

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