第819話 国は何を期待しているのだろうか??

3/30の読売新聞より。記事では、政府が人手不足の業界へ外国人労働者を受け入れる「特定技能」の対象に、新たに自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野を追加し、計16分野に拡大する方向としたそうだ。


「鉄道」については、世界に誇る技術を持っているが、その他の新たに追加した分野では、明らかに「人手不足」を補う、という意図が見える。しかし、そのように決めたところで、人が来るのかどうか、という点では極めて疑問である。政府は「日本はもはや国際的には『安い国』で、外国人労働者にとって魅力のない国」となっていることに気づかないのだろうか?


ネットの世界では、「オーストラリアへのワーキングホリデー」で結構多額の貯金ができた、というようなSNS発信が取り上げられることが多い。インバウンドでやってくる外国人たちも、「安価で良好なサービス」が受けられることで日本を選択することが多いようだ。バブルのころ、「国内旅行より安上がり」といって海外旅行が盛んだったころと立場が完全に逆転している。


言葉は悪いが、日本は今や「海外へ出稼ぎ」に出る方が儲かる国になっているのである。そのような国に、わざわざ他国から人材が訪れるわけがない。


日常の外来をしていると、時に外国籍で日本語の通じない方が受診されることがある。極めて残念なことに、英語も通じないので診療に大変な苦労をする。時に「多少日本語がわかる」同僚や、「少し現地の言葉が分かる」日本の企業の担当者が付き添うこともあるが、それでもうまくいかない。


私は診察の時に、自分のスマートフォンを診察机の上に置いている。患者さんを他院に紹介するときに、依頼したい診療科が、患者さんの希望する病院にあるかどうかを確認したり、紹介状で「訳の分からない略語」に出会ったときに検索したり、と使う機会は多く、このように言葉が通じない場合でも、相手の国が分かれば、スマホを介して意思疎通ができることに最近気が付き、ずいぶん診察しやすくなった。


来られている国を伺うと、ほとんどの方が「ベトナム」から来られている。


ビックマックの価格を、アメリカでの価格を基準とした相対評価で、金額の高い国別の順位にあった。つまりその2国よりもある意味「物価の安い=国民の賃金が安い」国である、ということを示唆しているのだろう。ベトナムは日本より少し下位に位置していたので、おそらくベトナムから人を呼ぶことができるのは、「まだベトナムより日本の方が『賃金・物価』が高い」ということを意味しているのだろうと思う。


いくら「間口」を広げたところで、金銭的に魅力のある国でなければ、「真っ当な労働者」が外国からくるわけではない。


埼玉県川口市での「クルド人難民問題」であったり、「外国籍の人への生活保護」の問題(生活保護は、日本に永住権があれば、得られるようだが)など、「外国から来た人」と「もともと日本に住んでいた日本人」の間でのトラブルがしばしば新聞に載るほどのニュースとなっている。


「外国人が日本に来ると治安が悪くなる」という表現は差別的であるが、「日本の国内法を遵守しようとする順法精神、これを持たない人が来れば治安が悪化する」ということは真実だろう。川口市では「外国籍(主にクルド難民)の順法精神のなさっぷり、それに対する「警察」の「治安維持機能」の不十分さ」から「自警団」を作ろう、という動きが出ている。これもネットニュースに上がっていたが、「自警団」への入団資格の一つが「日本人であること(帰化した外国人は不可)」となっていた。


この時点で、「民族主義」の萌芽を感じるのは不自然なことではない。「民族主義」も極めて危険で、旧ユーゴスラビアが共産党の崩壊とともに「民族主義」が台頭し、それぞれの民族が独立国を成立させる過程で、大量の血が流されたことは決して昔の話ではない。


日本は陸続きではない島国のため、「民族主義」の衝突、という経験に乏しい。「相手の文化を受け入れる」ということは必要であるが、それと同時に「相手にも「こちらの文化を受け入れさせる」」ということが必要である。お互いがお互いの文化を尊重することで初めて「共生」が達成されるのであって、日本という国は「相手に「こちらの文化を受け入れさせる」」という点では及び腰、のような印象を受ける。もちろん、そこには先の大戦の影響もあると思われる。


閑話休題。そんなわけで、「人手不足」の分野に外国から労働者を受け入れる、という発想、そのものがバブル時代の遺産で、国際的基準に合わせて「低賃金」である日本に真っ当な労働者が来るとは思えないのだが、というのが私の感想である。


若者が海外に出稼ぎに行っているのに、政府はあほやなぁ、と記事を読んで思った次第である。

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