第817話 救急外来については、個人的には「北米型ER」が良いと思う。

ソースは信越放送。Yahooニュースより


<以下引用>

そこで佐久地域の11市町村は、軽症患者を対象にした夜間の急病診療センターを開設し、4月1日から診療にあたります。


センターの診療時間は、平日の午後7時から9時まで。


地元の医師会の協力を得て医師1人が診療にあたります。 軽症患者の受け皿となることで、重症患者に対応する病院の勤務医の負担軽減を図ります。


<引用ここまで>


日本の医療システムは、診療所など、「軽症」の患者さんを対象とする「一次医療機関」、「重症」の患者さんを対応する「二次医療機関」、そして、「超重症」の患者さんに対応する救命救急センターなどの「三次医療機関」という縦型のシステムで組み立てられており、市町村を考慮し、地域の「二次医療機関」を中心とする「医療圏」という考え方があり、ほとんどの疾患は「医療圏」で完結する、というものとなっている。


「医療圏」という考え方は適切だと思われるが、縦型のシステムが実は危険なのである。というのも、「軽症」に見えて「実は重症」という患者さんが珍しくないからである。


「北米型ER」というシステムは、「超重症」~「軽症」まで、すべての救急患者さんに対応し、評価、治療、場合によっては転送(極めてまれ)、というシステムである。


私が研修を受けた病院グループでは救急外来は原則としてこの「北米型ER」システムを採用していた。各病院の医療体制によって、ERでどの患者さんまで受け入れるか、ということは異なっていたが、随時小児科の入院を受け入れることができる病院では、小児~老人、内科疾患も外科的対応も受け入れていた。


アメリカでのERは、待合室でのトリアージ(重症度の評価)が行なわれ、トリアージで「軽症」と判断された人は、5~6時間待たされることも普通であり、逆に重症と判断されれば、順番をすっ飛ばして対応する、ということになっている。トリアージは専門の「トリアージナース」が行なうので、少なくとも「自分は軽症」と思って来院された「重症患者」の見逃し率は低くなる。


長野県佐久市に計画されている「軽症患者さん」を対象とした急病診療センター、一つは診療時間が午後7時~午後9時、という関西では「夜診」として普通に診療が行なわれている時間帯に設置される、という点で、「文化の違いだな」と思ったことと、一番の懸念は、「自分は軽症」と思って受診された方が、実は「重症」だった場合に、適切な対応ができるのだろうか?ということである。


この急病診療センター、おそらくインフルエンザやCOVID-19の流行期には大混雑となるだろう、と思っているのだが、多くの「軽症(ここでは「経口薬の処方で対応可能な疾患」と定義する)患者さん」に交じって、その流行性疾患とよく似た症状の「重症疾患の患者さん」にあたることはしばしばあることだ。自身の経験を振り返っても、インフルエンザの大流行期に、「高熱、倦怠感」を主訴に受診された「重症急性B型肝炎(土曜夜の外来だったので、見逃していたら、患者さんはおそらく命を落としていた)」、「全身倦怠感」を主訴に受診され、患者さんが左上腕をさすっている(撫でている、の関西弁?)ことに診察時に私が気付き、


「何で左腕、さすってはるの?」

「しんどくなってから、なんとなくこの辺が痛いような気がする」


という会話で発見された心筋梗塞の患者さん、「おなかが痛い」という主訴で受診された若い女性で、本人も気づいていなかった「妊娠」と「切迫流産」、また、「おなかが痛い」という主訴で受診され、内科診療所のレベルでは診断がつかず、二次病院に紹介したら「卵巣嚢腫軸捻転」で緊急手術となった人、などなど、「診察したら実は重症だった」というのは多いのである。


なので、佐久地域の二次医療機関の救急外来を、曜日を決めて輪番制にし、当番でない日は「宿日直許可」を得られる業務量とし、当番日には、「夜勤」という形で力を入れて救急対応を行なう方がよいのではないか、もちろん、医師についても、ある程度融通を利かせて、他の病院からも応援を受けて体制を作る、という形で「北米型ER」のスタイルで夜間救急医療を提供するのがよいのでは、と思うのだが。


もちろん、佐久地域の医療状況が分からないので、これは部外者の意見であることは重々承知の上ではある。


ただ、「軽症患者さん」を対象とする医療機関に「軽症に見えて実は重症」という患者さんが受診することは絶対にあることなので、そういう患者さんが「システム」の狭間で不利益を被らないように、命を落とさないように運用できればいいな、と思った次第である。

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