第814話 だいじょうぶだぁ~
志村 けんさんのネタの一つ「だいじょうぶだぁ~」。今朝、久々にその言葉を聞いた。
当院は高齢の方の入院を受け入れているので、その多くの人が認知症を持っている。人によっては夜も寝ないでゴソゴソと動き回っている。
当院では、「手足をベッドに括りつける」という形での身体拘束は行わない、というルールで動いている。これはなかなかに難しいことである。
司法の世界は極めて理不尽で、「身体拘束の結果、その合併症で死に至ったと推測される」という裁判には、「身体拘束をした病院が悪い」という判決を出し、「認知症のある人が、徘徊して院内で転倒、頭部を打撲し死亡した」という裁判では、見守りや、場合によっては適度な抑制などの対応が必要であった、という判決を出しているのだ。
身体拘束をしても、しなくても「病院側が悪い」なんてことを言われれば、「ほな、どうしたらええねん!」と言いたくもなってしまう。申し訳ないが、このような話を聞くたびに、私はこの言葉を思い出してしまう。「悪貨は良貨を駆逐する」と。
閑話休題。そんなわけで、夜も寝ずに、歩けるのほどの脚力もないのに動こうとする人に対しては、車いすに座ってもらって、転落防止用の安全ベルトを着けて(これも入院時に「身体拘束」として同意をもらっている)、車いすで動いてもらっていることが多い。本人は行きたいところに行くことができ、よほど変なことがなければ転倒することもない。
朝早めに職場に来て、朝回診をして、カルテを書いていると、そのような女性二人の会話が聞こえてきた。相手の言葉に耳を傾け、そして伝えたいことを伝える、という点では「会話」なのだが、話が全くかみ合っていないところが面白い。でも、それでお二人が仲良くニコニコされていれば、問題ないことである。
飛び交う会話を聞くともなく聞きながら、カルテを書いていると、女性のうち一人が、あの志村 けんさんの口調で「だいじょうぶだぁ~」とおっしゃられた。あまりにも志村さんの口調と一緒で、不意を突かれびっくりした。
もう少しお若かったころは、お孫さんと、志村けんさんのテレビ番組でも見ていたのだろうか?と思うと同時に、このようなご年配にまで、「だいじょうぶだぁ~」が染みついていたことに深い感銘を受けた。
朝回診のちょっとした出来事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます