第810話 自分の無知さ加減に恥ずかしいほど

この冬の気候は、何と表現してよいかわからない、訳の分からない気候だった。時季外れの寒気に襲われたり、真冬に日中20度、なんていう事もあった。


この前の冬(2022~2023年冬)はコンスタントに寒くて、車通勤をしている私は、フロントガラスの融氷剤を1本半使った。なので冬が来る前に、新しく1本購入していたのだが、つい最近までほとんど出番がなく、昨年の残り半分でやり過ごすことができていた。


春の彼岸も過ぎ、このまま暖かくなるかなぁ、と思っていたら、昨日は車の上に雪が積もり、今日もフロントガラスはカチンコチンで、今頃になって、新しい融氷剤を出すことになった。来週に冬用タイヤの交換の予約を入れていたが、そうしておいてよかった、と心から思った。夏用タイヤにしていたら、昨日と今日は出勤できなかったかもしれない。


さて、昨日は朝、出勤しようとすると車の上に雪が積もっていた。車の上だけでなく、近隣のお宅の植栽の上などにも雪が残っていた。


「今日は冷えるなぁ」と思いながら出勤。いつも通り朝の回診を終わらせて、外来診療のために1階に下りてきた。


外来診察室の窓の外には、お隣のお寺さんとの塀があり、見晴らしは良くないのだが、病院の建物と塀の間には「植栽」ではないにしてもいくつもの植物が植えられている。


診察室の椅子に腰を下ろし、ふと窓の外を見ると、そこにある植物にも、まだ雪が残っていた。


「日の当たりにくいところだと、まだ溶けずに残っているのかな?」


と思ってよく見ると、雪ではなく、白く小さな花が集まっていたのだった。


多分、普通の人はここで気がつくのだろう(うちの家族曰く、「この時点で気がつくだろ」とのこと)。ただ残念なことに私は気づかなかった。


「なんて名前の植物なのかな?」


と疑問に思った。最近はスマートフォンがとても便利で、わからない動物や植物をカメラで取れば、たちまちにその名前を教えてくれる。そんなわけで、ブラインドを持ち上げ、その植物の写真を撮った。出てきた名前は「ユキヤナギ」。


「なんだ、そのままやん」


と思ったが、確かに遠目で見れば、小さい花が、緑の葉っぱにくっついた雪の結晶に見える。名前、そのままであった。


我が家では夕食中は、基本的にテレビやラジオをつけない。妻の「夕食の時間は『家族の語らいの時間』」という思いからである。なので、何かしら「話のネタ」を見つけなければならない。


「ちょうどよいネタができた。今日の夕食はこのことを話題にしよう」


と思い、仕事を開始した。


そして仕事を終えて夕食の時、この話を持ちだした。


「外来の椅子に座ったら、窓から見える植物に雪が積もっててん。日陰やし、溶けにくいんかなぁ、って思ってよう見たら、小さな白い花やってん。名前がわからへんかったから、スマホで名前を調べたら…」


といったところで、家族全員から、


「『ユキヤナギ』やろ!」


と言われてしまい、私がびっくりしてしまった。


「えっ?みんな「ユキヤナギ」って気がついたん?」

「父、「ユキヤナギ」を知らんなんてびっくりしたわ」

「父ちゃん、「ユキヤナギ」知らんかったん?」


と子供たちには大いに驚かれ、妻には、


「この前の日曜日、お兄ちゃんの大学の手続きで京都に行ったでしょ。あの時、歩いていて私が『ユキヤナギがきれいね』っていうたら、あんた、『そうやなぁ』っていうてたやん!いったいどこで、何を見て『そやなぁ』って言うたん??!」


と叱られる始末。「ユキヤナギ」知らなかったの、我が家で私だけだったようだ。


どうも私は植物系は苦手で、「小松菜」と「ほうれん草」、おひたしにしたら区別がつかなかったり、「梅」と「桜」の花も、「紅梅」は明らかに「梅」だとわかるのだが、ほんのりピンクでまるで桜色のような色の「梅」だと、「桜」と区別がつかない。時季外れに


「桜がきれいやねぇ」


と言って、妻や子供たちに


「お父さん、まだ『桜』の季節ちゃうやん。あれ「梅」やで」


とたしなめられたこともしばしばである。


「コンクリートジャングル」というわけではなく、多少は木や川があり、ザリガニ釣りをしたりトンボとりをしたりして遊んでいた子供時代ではあるが、所詮は都会人、どうもその辺りが苦手である(いや、妻も、子供たちも、私と同じような環境で育ってきているはずなのだが??)。

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