第760話 おぉ、教科書通りだ!
先般書いたように、この数日、ひどい歯の痛みに悩まされている。痛みが強いので、どうしても鎮痛解熱薬に頼らざるを得なかった。一般的な痛み止めである「ロキソニン」や「ボルタレン」などの薬は医学の世界ではNSAIDs(Non-Steroid Anti-Inflammatory Drugs:ステロイドではない抗炎症薬(直訳))と称されている。
痛み、腫脹、発赤、熱感を4徴とする「炎症」のメカニズムの一つとして、細胞膜を構成する脂質の一つである「アラキドン酸」という脂肪酸が、「シクロオキシゲナーゼ」という酵素で「プロスタグランジン」という物質に変換され、このプロスタグランジンが「炎症」を起こす物質の一つ、とされている。このNSAIDsと呼ばれる一群の薬は、「シクロオキシゲナーゼ」の働きを抑え、プロスタグランジンの生成を抑えることで「抗炎症作用」を発揮する、と考えられている。
ところが、プロスタグランジンは、「炎症」のみならず、様々なところで重要な役割を持つ物質である。「胃」では「胃酸」で胃の粘膜が傷ついたり消化されないように、常に胃壁は「粘液」で守られているが、粘液を分泌するメカニズムにプロスタグランジンが関与している。プロスタグランジンが減ると、粘液が減ってしまうのである。
「薬を飲んだら胃が荒れる」とよく言われるが、その多くは、このNSAIDsで胃粘膜の防御因子が弱くなることで起きているのである。実際に胃潰瘍(だけでなく、小腸など、他の消化管にも)を作ることはよくあり、「NSAIDs潰瘍」と呼ばれ、時には吐血するなど命にかかわることがある。
その他、腎臓やその他の毛細血管、睡眠など、様々な生理活性をプロスタグランジンは持っている。
腎臓については、ややこしい話は省略するが、血液のフィルタとなる糸球体に負担をかけて腎機能を低下させたり、本来排泄されるべき水分をトラップしたり、などとあまり心臓、腎臓には優しくない薬なのである。なので、特に高齢者については、NSAIDsを処方するかどうするか、迷う事が多いのだ。
赤ちゃん、妊婦さんでも使う「アセトアミノフェン」と呼ばれる解熱鎮痛薬はシクロオキシゲナーゼの経路とは別で(今でも詳細は分かっていないが)、痛みや熱を抑える効果があり、高齢者ではアセトアミノフェンを選択することも多くなっている。
さて、そんなわけで、NSAIDsを飲むと、先ほど述べたように「体内に余分に水分を貯め込んでしまう」という事が起きる。
私は毎日、お風呂上りに(忘れなければ)体重を測定するようにしている。現在は大体82.5kg~83.5kgの幅で動いている。体内の筋肉量も測定してくれるのだが、筋肉量は約55~56kgで推移している。私の身長からBMIを使って理想体重を計算すると、約56kgとなるのだが、測定誤差があるとはいえ、除脂肪体重が56kg、という事なら、「理想体重に減量」することは「無理」という事である。まぁ、それはそれとして、昨年COVID-19に感染し、数日間寝込むことになった。回復後体重を測定すると約80kg、除脂肪体重は54kgとどちらも2kg減少した。COVID-19の期間、食事はほとんど取れなかったので、ここでも、「余分なカロリーは脂肪に、身体にブドウ糖が必要な時は筋肉から調達」を証明したわけである。
閑話休題。そんなわけでこの数日NSAIDsを飲み続けていた私だが、体重が84kgを突破してしまった。別に食生活が変わったわけではない。なんとなれば、歯の痛みで食事がとりにくくなっている状態であるが、明確に体重が増えた。
1日に1.5kg以上の体重増加は「水の貯留」という医療の格言があるが、NSAIDsの薬理効果を考えると、この体重増加は「水の貯留」と考えて良さそうである。
何ともまぁ、教科書通りだこと、と思った次第である。
ありがたいことに歯の痛みはずいぶん落ち着いた。金曜日に再診予定であるが、それまでにNSAIDsは離脱できそうな印象である。
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