第755話 救急車の一部有料化に思うこと

三重県松阪市が、市内の二次救急受け入れ病院である松阪中央病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院の3つの病院に搬送した患者さんで、入院とならなかった場合には、一回当たり7700円を徴収することを決定した、ということがニュースになっている。


ニュースの記事では、この7700円は「救急搬送費用」ではなく、「選定療養費」であるとのことだった。「選定療養費」は、一定の規模以上の病院に紹介状なく受診した場合に、通常の診察料とは別に徴収できるものである。


記事を読んでも、この7700円をどこが徴収するのか明確にされていないが、「選定療養費」と銘打つからには病院で徴収するのだろう。それは病院側の収入になるのか、市の収入として消防隊に還元されるのか、そこが明確になっていないので、何とも言い難い。


研修医のころ、救急隊の方に、「搬送費用の有料化の是非」について伺ったことがある。お話を伺った隊員さんは、「搬送費用は取らない方がいいと思います」と答えられた。理由は「お金を取ると、必ず『〇△病院に搬送しろ!こっちは金を払っているんだぞ!』という人が現れるからです」とのことだった。なるほど、容易に想像できる事態である。有料化することで、逆に「タクシー化」してしまうリスクがある、ということだ。隊員さんからの言葉は重いと思った。


救急車は「重症患者さん」が利用するもの、というイメージがあるが、必ずしもそうではない。タクシー代わりに使う人が多い、というのもあまり適切ではない。もちろんそういう人がある程度いるのは事実ではあるが。


例えば交通事故の場合、負傷者がいれば、その人が明らかに「かすり傷」程度でも救急車を呼んで救急搬送となることがほとんどである。これは「警察の指示」となっていることが多いので致し方ない。


「救急車の有料化」としても、救急隊がお金を徴収するのは先の隊員さんが懸念されたような問題を来すことが多いと思われる。なので、病院側が医療費の支払いの時に救急車出動にかかる費用を回収し、それを、それぞれの救急隊を管轄する市や広域消防組合に還元するのがよいのではないか、と思う。言葉は悪いが、「社会保険料」のように「黙って回収する」のが、トラブルがかからなくてよさそうだと思う。


あと、有料化するのなら、全員から回収した方がよいと思う。「入院にならなければ支払うということも不合理ではないが、細かな条件を付けてしまうと、医療者側に、「重症とみなすようにしろ」と詰め寄る人がおそらく出るからである。


新たに制度開発をするのであれば、生活保護の方であっても、一定額は徴収すべきだろうと思う。「手続きをすれば、後に返金」という形でもよいと思う。


なんてことを思った次第である。

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