第753話 奥歯の痛みに悩まされる

始まりは木曜日の昼食だった。確か朝食は何の痛みも違和感もなく食べたはずだったのだが、昼食を食べると「痛いっ!」と右下の一番奥の歯に激痛が走り、その不意打ちと痛みの強さにびっくりした。


結婚するまでは、自分の歯科衛生に極めて無頓着で、若いにもかかわらずちょくちょく歯肉炎や歯根炎をおこし、いくつかの永久歯を抜歯する羽目になったのだが、結婚後は毎日歯磨きと、歯間ブラシを使うようになり、ここ十年近くは歯の痛みとは全く縁遠くなっていたので、ひどく驚いた。


奥歯が痛むと、食事がしづらい。痛くない方の奥歯だけでものを噛んでいるが、しっかりかみ砕けているか、と言われるとなかなか難しいように思う。


「痛み止めを飲んで、明日まで様子を見るか。木曜日だし午後はいつもの歯科、休診だ」


と考え、手持ちの痛み止めを使い、念入りに歯を磨いて就寝した。


翌朝は、さらに痛みが増してはいるが、運がいいのか悪いのか、痛んでいる歯と向かいあうべき歯をずいぶん前に抜歯しているので、ものを食べなければあまり気にはならなかった。金曜日にはduty workのない日なので、たまっていた書類を片付け、新入院の患者さんを受け入れたり、毎週行っている、自分の担当患者さん全員のカンファレンスのために用意している、患者さんリストを更新したりしていた。


そして、帰りにかかりつけの歯科に寄った。


「すみません。予約はないですが、右下の奥歯が痛んで、診てほしいです」と受付にお願いし、受診の受付をした。


先生に診てもらい、レントゲンを確認してもらったが、先生からは


「保谷さん。レントゲンや、『痛い』とおっしゃっている歯を診察する限り、あまり痛みの原因となるようなものはなさそうですよ」


と言われた。


いつぞや、「歯が痛くて、歯科に通院しても治らず、歯科でその歯を抜いてもらったが痛みが止まらず、難渋している」という患者さんを診察したことがあったように記憶している。現実問題として、明らかな痛みの原因が明らかでなければ、その患者さんと同じである。


その当時も患者さんに「つらいですね」とお伝えしていたが、やっぱり強い痛みにさいなまれることになると、確かにつらいものである。


その日は、歯根部の歯石など、原因となりそうなものを掃除してもらい、歯根部に薬液注入してもらい診察終了となった。次回は来週である。


歯科の治療後はちょっとましになった気分だった。


ところが、今朝もまた痛みが続いており、痛みはさらに強くなっていた。


痛み止めは一般的に使われることの多い「ロキソプロフェン(先発品ロキソニン)」よりも強めの「ジクロフェナク酸(先発品ボルタレン)」を内服しているが、今日の午前中は、何もしなくても痛みが強くなっていった。痛くて、診療に集中するのが難しいほどだった。


歯根部のあたりの感染を考え、手持ちのミノサイクリンも昨日から開始していたが改善なく、隣の診察室の先生にお願いし、歯周ポケットに常在する嫌気性菌をターゲットにオーグメンチン+サワシリンと、追加のボルタレンを処方してもらった。


昼食後は、痛みが強くて、本来1回1錠、1日3回と添付文書に記載されている用法容量を破り、ジクロフェナク(25㎎/錠)を2錠飲んだ(ちなみに、坐薬ではジクロフェナク50㎎/個である薬形が存在するので、2錠飲んだから、と言って高度の毒性が出現するわけではない)。


痛みは改善せず、今ではその歯だけでなく、上の歯や頬骨、右の耳の穴なども痛い感じがしている。


顔面の感覚は「三叉神経」が掌っており、おでこと目の結膜、角膜の感覚を掌る第1枝、下の瞼から頬骨、上唇までと、上の歯の感覚を掌る第2枝、下顎と下の歯の感覚を掌る第3枝に分かれている。3つに分かれるから「三叉神経」という名前がついている。


顔に些細な刺激で電気が走るような鋭い痛み(電撃痛)が起きる疾患を「顔面神経痛」と呼ぶ人が多いが、「顔面神経」は基本的に顔面の表情筋の動きを掌っており、顔面神経が関与する感覚は「舌」からの味覚のみである。なので、本来の正しい病名は「三叉神経痛」である。


今の私は、右第2枝、3枝の領域に痛みを感じており、耳の穴(ここの感覚も三叉神経)の不快感も感じている。右の三叉神経が広範にダメージを受けているような印象を受ける。ただ、三叉神経痛のような印象でもない。


ジクロフェナク、さすがに1回50mgを続けるのは胃袋にも腎臓にも極めてよろしくない。よろしくはないのだが、痛いのもつらいものだ。はてさて、週末をどう乗り越えようか??


今では「じっとしていてもいたい」状態である。悪くなる方向に病気が進んでいるときはいろいろと嫌なことを考えてしまう。本当に良くなってくれれば、と心から思っている。

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