第752話 濃縮した1日

年末以降、とても濃密な仕事時間を過ごしている。担当患者さんが増えたこと、重症の患者さんや、「終末期」ではないものの緩和ケアを必要とする患者さんが入院されたことなどで、1時間のサービス早出出勤をしていても、午前中のduty(duty:義務、ここでは外来など固定化された私の「義務」的な仕事を指しています)にギリギリ間に合うかどうか、という具合である。


朝はAM5:50に起床しているが、さらにこれを前倒しすることは厳しい。その時間に起きて、ルーティーンを行ない、出勤しようとすると6:30頃になる。朝の準備として40分は悪くはなかろうと思っているし、妻のお弁当作成を考えても、前倒しは無理である。


担当患者さんが増えた分、作成する書類も、患者さんご家族への病状説明も頻度が増えるので、午前のdutyを終えても、なかなか落ち着いて患者さんの今後を方針立てる、という事も難しいし、空き時間に書いていた「カクヨム」への投稿も、書く余裕がない。


いくら残業しても当院では医師には「残業代」がつかないこと、以前ハードワークで休職に至ったことを考えると、必要最小限の「残業」をして、可能な限り早く帰宅するようにしている。


なので、私個人としては、職場では密度の濃い毎日を過ごしている。


つい数日前のことなのに、もう火曜日がどんな感じだったか忘れてしまった。朝回診の時点で、それまで安定していた人が急に敗血症性ショックとなっており、外来直前まで朝回診が終わらなかったこと、午前診もかなり時間がかかったこと、午後も新入院の方への対応だったり、入院中の方のご家族への病状説明だったりと仕事に追われ、ようやく終わった、と思い医局に戻ると、自分の机の上に「書類書いてください」というカルテが山のように積まれていて、もう定時、という状態だった。


水曜日もハードだった。朝回診では、重症だった方がさらに重症となっており、血液培養からは、前日「MRSA疑い」と緊急Faxが届いていたのだが、この日はさらに「酵母様真菌を検出」と届いていた。MRSAと真菌感染、両方をカバーしなければならない。ただそれだけに注目すると、グラム陰性桿菌のカバーができず、この方、大腸の手術後の縫合不全もお持ちなので、腹腔内のグラム陰性菌を考えると…などと、頭を悩ませ、この日もまた、duty開始直前まで朝回診を引っ張ってしまった。


水曜日は、私の訪問診療日となっているのだが、同行する看護師さんから、


「先生、すみません。今日は初回の患者さん、臨時の患者さんもおられ、今日は20人です」と言われ、頭を抱えた。


かつてプライマリ・ケア学会の秋期講習会に参加した時、高名な先生の講演を聞いていて、その時に先生が「まぁ、3時間で25人の患者さんを診療できれば、ひとまず合格でしょう」とおっしゃられたことがあった。


「3時間で25人」は、病院/医院に患者さんが来てくれて、呼び込めばすぐに患者さんが入ってこられる状況での数である。あっちに行き、こっちに行き、という訪問診療ではとてもそうはいかない。しかもこの日は、かなり遠方(病院のある地域から、車で片道30分程度)まで行かなければならない日であった。


「20人ですか?!それは午前中で終わりませんよね。13:30に新入院の患者さんが来られるので、何とか13:00には訪問診療が終わるように頑張りましょう」


と伝え、訪問診療に回った。なかなか良いペースで回れたのだが、やはり「数の暴力」に勝つことは難しい。何とか病院に戻り、必要な指示、書類を書いて、訪問診療の業務を終えたのは13:15だった。新入院の方が来られるときは、医師から説明し、記入してもらう用紙が2枚あるので、その準備のために10分前には病棟に下りるようにしている。


「う~ん、10分前に病棟、は難しいけど、5分前に下りる、とすれば10分間ある。よし!お弁当食べよう」


と、10分間でお弁当をかき込んだ。10分で昼食を終え、病棟にて待機。予定を少し遅れて患者さんが到着された。


入院時に行うお話を本人、ご家族にしていると、もう一つの病棟から連絡が。


「先生。〇✕さんのご家族がそろわれたので、病状説明をお願いします」

「分かりました。今、新入院の患者さんの対応中なので、5分ほど待ってもらえますか?終わり次第、そちらに向かいます」

「は~い、わかりました」


とやり取りをして、またお話に戻る。個人的にはこのような「ケツカッチン」の状況は嫌いなのだが、しょうがない。平静を装ってお話の続きを行ない、医師からの「入院に際しての説明」を終えた。


署名していただいた書類を看護師さんに渡し、すぐに病状説明の場所に向かう。あまり病院内をバタバタするのは宜しくない、とは言われているが、時間を過ぎて普通に医者が現れても、あまりいい気はしないだろう。少し息を切らせて、いかにも「急いで来ました」風に(いや、実際急いで)カンファレンス室のドアを開け、


「お待たせしました。遅くなってすみません」


と入室した。そこでどんな話をしたのか、細かくは覚えていない(どの患者さんだったのかも記憶にない)が、とにかく、そんな小細工をしたことは覚えている。


病状説明を終え、医局に戻り、前日から放置され、さらにうずたかくなった書類の山を片付けると、またもや定時過ぎであった。


そんな感じで、一昨日も、昨日も過ごしている。


大わらわである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る