第751話 週明けは(週明けも?)「戦い」の日

ありがたいことに、現職場に入職してからは、週休2日、当直なしの勤務形態で働かせてもらっている。ちょうど私が高校を卒業するときに、ドリンク剤「Regain(リゲイン)」のCMで「24時間戦えますか」という言葉が大流行していた。私も卒業アルバムの寄せ書きに「24時間戦えますか」と書いていた。


その言霊が、私が仕事をすると同時に働き始めたのか、初期研修医から、メンタル不調で休職に追い込まれるまで、「学会への出席」などで地元を離れているとき以外は、当直か、深夜の緊急呼び出しか、という感じで、24時間365日、臨戦態勢を取り続けなければならなかった。


他のDr.がどのような思いでいるのかはわからないが、私は、出勤する、外来に向かう、訪問診療に向かう、と、なにか診療行為を開始するときは、気持ちは「戦場に向かう」ような思いでいる。心の中に流れている音楽が、時にS&Gの”The Boxer”だったり、The Rolling Stonesの”Street Fighting Man”であったりするが、心のどこかに「悲壮感」と「恐怖」を抱えて向かっている。


現実に臨床の現場では、どこからどんなミサイルが飛んでくるかわからない。何気ない一言で大きな問題を発見したり、逆にその何気ない一言に気づかず、後で「あぁぁっ!」と頭を抱えることもある。


休み明けも、これまた「戦場」に向かう気分である。2日間病棟を見ていないので、その間に安定していた人が急変していたり、思わぬ重症の人が、サラッと入院して放置されている、なんてことを経験しているので、「休みは欲しいけど欲しくない。休んだ分だけさらに仕事が増えるから」と思っている。


前職場では、「敗血症性ショック」を起こしている患者さんが「ロタウイルス腸炎」という病名で入院していて、「どこが『ロタウイルス感染症』やねん!敗血症性ショックで死にそうやんか!」と大わらわになったこともあったが、現職場ではそういう事がない、という点ではホッとしている。


ただ、今朝からやはり「休み明け」、状態の安定していた人が重症化したりしていて、てんやわんやだった。外来もある程度穏やかではあったものの、入院、手術が必要な患者さんがやってきて、転送先が決まらずヤキモキしたりと、なかなかに大変だった。


「医師」という仕事をすることに誇りを持っていて、自分自身の職務に忠実に、ミスすることなく専念するつもりで外来や訪問診療などに向かっているが、先ほども書いたように、心の大部分は「恐ろしい戦場に向かう」気分に染まっている。


他の先生方は、どんな思いで外来に向かわれるのだろうか?外来や訪問診療を始めてから、20年近くなろうとするが、「仕事に慣れた」なんてことは全く思わない。いつも「どんな患者さんが来るんだろう」とビクビクドキドキしている毎日である。

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