第743話 “Something”と”Layla”

「ザ・ビートルズ」が4人で作った実質的ラストアルバム”Abbey Road”の2曲目、ジョージ・ハリスンの作曲した”Something”と、「デレク&ザ・ドミノス」の曲で、エリック・クラプトンの代表曲の一つでもある”Layla”。どちらも名曲であり、知名度も高い曲であるが、この2曲には共通点がある。どちらの曲も、一人の女性、「パティ・ボイド」に宛てて書いた曲である、ということだ。


「パティ・ボイド」はイギリスのモデルさんで、「ザ・ビートルズ」の初めての映画”A Hard Day’s Night”にエキストラメンバーの一人として参加したところ、ジョージ・ハリスンが恋に落ちてしまい、彼女と結婚することとなった。“Something”が作曲されたころは、まだ二人は夫婦で、ジョージは彼女をイメージして曲を書いたらしい。


作詞に苦労したことは、ドキュメンタリー映画”Get Back”でも映像として残っており、ジョージがポールに「半年前に曲は大まかに完成したけど、歌詞がうまくいかないんだ」と相談し、それを聞いたジョンが、「歌詞が埋まらないところは、適当に言葉を入れて、後で考えればいいんだ」と声をかけるシーンが放映されていた。そのセッションの中で一度、パティがジョージの元を訪れ、ハグをして、一言二言言葉を交わして、スタジオを後にする、というシーンも放映されていた。


ジョンがオノ・ヨーコと深い仲になるまでは、彼らの不文律として、「スタジオに彼女や妻を連れてこない」というものがあったらしい。ただ、ホワイトアルバムセッションのころから、リーダーのジョン自らがその不文律を破ってしまい、ヨーコをスタジオに毎回連れてくるようになったそうだ。なのでその不文律がなくなったのだろう、ジョンとヨーコは常に一緒に行動し、セッション後半では、後にポールの妻になるリンダ・イーストマンも娘を連れてスタジオに入るようになった。リンダについては、彼女の仕事が音楽誌のカメラマン、というところもあるのかもしれないが。


ジョージとリンゴは、その不文律が生きていたころに結婚したからだろう、ヨーコやリンダと比べて、“Get Back”に彼らの妻が出てくることは少ない。リンゴの当時の妻であるモーリンは、「ビートルマニア」いわゆる熱狂的なビートルズファンだったのにもかかわらず、わずかしか登場していない。


閑話休題。パティは、自身のインタビューの中で、「自宅で歌ってくれた、一番最初の“Something”が一番うれしくて、一番好きだ」と答えていた。


ジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンは「親友」とも呼べる関係であった。1990年代後半だっただろうか、息子さんを幼くして亡くしてしまったエリック・クラプトンを励ますために、世界ツアーを組んで世界中を一緒に旅したのがジョージであり、ジョージが亡くなった後、”Concert For George”の中心となって、世界中でジョージの曲のコンサートを行なったのはクラプトンであった。


ただ、パティ・ボイドについては、ジョージの妻であったパティにクラプトンが恋をしてしまい、恋焦がれる想いを曲にしたのが”Layla”である。“Layla”は中東の物語で、美しい女性「ライラ」に恋焦がれ、相思相愛であったにもかかわらず、周囲の邪魔で結ばれず、狂気にとらわれ亡くなった青年「カイス」の物語、「ライラとマジュヌーン」に着想を得た曲、と言われている。結局パティはジョージの元を離れ、エリック・クラプトンと結婚するが、この結婚生活はうまくいかず…、となってしまったのだ。


曲の背景の通り、“Something”は「愛しい妻」への美しく優しい曲となっており、“Layla”は、禁じられた恋に身を焦がす男の情念を表すかのような激しいギターの曲である。


さて、“Layla”のイントロは、エレキギターをたしなむ人なら、一度は弾いたことがあるであろうフレーズであり、一時期は“MITSUBISHI MOTORS”のイメージCMでも使われたほどの力強いフレーズである。手すさび、というわけではないが、時にそのかっこいいフレーズをギターで弾いたりしている。


数日前に、“Something”のギターソロを弾いてみた。曲も、ギターソロも優しくて美しい曲だが、実際に自分でギターソロを弾いてみると、メロディーを奏でるギターそのものから、「美しくて優しい」ジョージの思いが溢れてきた。フレーズそのものは難しい技巧を凝らしたものではないのだが、CDを聞くより何倍も優しさがギターからあふれてくる。


ジョージ・ハリスンは決して技巧派のギタリストではないが、このようなギターソロを生み出すところは、やはり「ザ・ビートルズ」のリードギタリストなのだろう。“Let It Be”のギターソロも、シングル版、アルバム版とも決して難しくはないのだが、ものすごく味のあるフレーズである。


今日も”Something”のギターソロを弾いた。原曲とは異なりそれなりに歪ませた音で弾いたが、それでもとてもやさしいメロディだった。「聴く」よりも「弾く」ことでさらに好きになった曲である。

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