第735話 大事故の裏のヒューマンエラー

1/2に起きた海上保安庁の飛行機と日本航空の飛行機の接触事故。まず、亡くなられた海上保安庁の5名の職員のご冥福を心より申し上げる。それと同時に、日航機の乗客に死亡者が出なかったことは奇跡だと思われる。


この事故については、「航空安全推進会議」から声明が発表され、「警察」の捜査ではなく、「運輸安全委員会」の調査を優先すること、国際民間航空機関(ICAO)が策定した「航空機事故及びインシデント調査に関する標準と勧告方式を定めた第13附属書」(ANNEX13)の考えに基づき、航空機事故の原因を特定して再発防止に努めるべき、と強調されている。


「警察」の捜査が、事故の原因から「有罪」と思しき者を「検挙」することを目的としていることに対して、「運輸安全委員会」は事故の原因を明らかとし、「同様の事故の再発」を防止する、という点でアプローチが異なっている。


これまでも、日本国内では「警察」の捜査が優先されたため、結局真相を明らかにできなかったことが繰り返されていたようであり、声明についてはその問題点を強調していた。


衛星放送/ケーブルテレビの「ナショナルジオグラフィック・チャンネル」で放送されている(いた?)「メーデー」という番組では様々な飛行機事故と、その原因、その調査過程を取り上げており、事故の全容の解明には長い時間がかかること、そして時に思いもよらなかった原因が見つかる、ということがよくわかる番組である。


この番組でも、調査の中心は各国の運輸安全委員会であり、一国だけでなく、調査期間は国際的であり、担当者が真相の追及に全力で当たっている姿が描かれている。


「ハイジャック」などの「故意」で起きた事故については、当然罪を問うべきであるが、ほとんどの航空事故は「システムの問題」あるいは「単純なヒューマンエラー」の積み重ね、それらが複合した結果として起きている。


「ヒューマンエラー」については、その人を処罰することで「ヒューマンエラー」を減少させることはありない。ということを考えても、「誰に責任があり、誰を処罰すべきか」という視点ではなく、「自己に至る各段階で何が起きたのか、それは何が原因なのか、それを起きないようにするにはどのような対策が必要か」ということを視点に置いている「運輸安全委員会」の調査を優先すべきであることは適切だと思われる。


昨日のニュースだったか、海上保安庁の飛行機が滑走路に誤進入しているとして、ディスプレイの一つが黄色の警告を出し、滑走路上の海上保安庁の機体はディスプレイ上で赤く警告されていたが、誰もそのディスプレイの表示に気づかなかった、との報道があった。その対策として、ディスプレイの監視に専任する人を一人置く、ということになった、と報道されていた。残念ながらそれでは何の問題解決にもなっていない。というのも、その一人が画面の異常を見落とす、というヒューマンエラーを起こす可能性があるからである。


この事件の報道を見ていてわかるように、複数のヒューマンエラーが重なって事故が起きているわけである。事故が起こるときには、まるで魔法にでもかかったかのように複数のヒューマンエラーが重なって起きる。人間のすることからヒューマンエラーをゼロにすることはできないのである。


管制塔内がどのような環境なのかは分からないが、もし、アラーム音が飛び交うような状況でなければ、滑走路への誤進入があれば、ディスプレイだけでなく、アラート音を鳴らすのは一つの解決策であろう。逆に、常にどこかでアラート音が鳴っているような状況であれば、アラート音を鳴らす、というのは適切な解決法ではない。一つは「オオカミ少年」のような、アラートに気づかないという現象が起きること、もう一つは、同時に複数のアラート音が鳴り続けると、スリーマイル島原子力発電所での事故のように、管制官がパニックに陥ってしまうからである。


このように、「検出されている異常」を見落とした、というヒューマンエラーについても、その対策は一筋縄ではいかないのである。


運輸安全委員会の調査官の方は頑張ってもらい、同様の事故が起こらないような対策が立てられるよう願っている。

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