第724話 これが「日本のモノづくり」か。

ソースは毎日新聞。Yahooニュースより


<以下引用>

 完成したはずのトンネルが、ほぼ全てやり直しに――。


全国の公共工事でも異例の事態が和歌山県で起きている。トンネル内壁のコンクリートの厚みが規定の10分の1しかないなど「張りぼて」であることが発覚したのだ。


<中略>


 施工不良が発覚したのは、同県那智勝浦、串本両町境の「八郎山トンネル」(全長711メートル)。この地域の主要幹線道路・国道42号は、海岸近くを走っており、地震による津波被害が想定される。このため、内陸部を通る県道に新たなトンネルを設けようと、県は2020年に一般競争入札を実施。浅川組(和歌山市)など2社による共同企業体が約20億円で受注した。22年9月に完成して県に引き渡され、23年12月に使用開始予定だった。


ところが、別の業者が22年12月、照明設置のために天井に穴を開けると、内部に空洞があることが判明。その後の県の調査で、本来30センチであるべき内壁コンクリートの厚みが3センチしかない部分があるほか、全体の約7割で空洞が見つかった。風化や地震などによるひび割れでコンクリートが落下しやすくなるという。


事態はこれだけで収まらなかった。内壁のコンクリートを剥がすなどして、トンネルを支えるアーチ状の鋼材(支保工(しほこう))を調べたところ、ほぼ全域で本来の位置に設置されていなかった。その結果、内壁を全域で剥がし、約700本の全ての支保工を外して、掘削以外の工程をやり直すことが決まった。工事費用はすべて受注業者が負担する。


一体、何があったのか。浅川組によると、現場担当者は社内調査に対して「コンクリートの厚みが確保できないことを認識していたが、工期を短縮したかったのでそのまま工事を進めた」「数値を偽装して検査を通した」と認めたという。また、県の調査では、工事の進捗(しんちょく)に応じて県のチェックを受ける「段階確認」の申請について、業者側は「内壁の薄さを隠すため規定を守らなかった」と明かしたという。県は事態を重くみて、受注の2社を23年7月から6カ月間の入札参加資格停止とした。


◇和歌山県の管理にも甘さ

これほどずさんな工事にもかかわらず、県はトンネルを引き渡されても施工不良を見抜けなかった。念の入ったことに、業者の現場担当者は内壁の厚さの数値を改ざんした書類を県に提出していたのだ。ただ、県側も本来136回必要な段階確認を最初の6回しか実施していなかった。県の管理の甘さが、ずさんな工事を助長した面もある。


県は「担当者が今回のようなトンネル工事の経験不足で、すべての進捗ごとに検査しなければいけないという認識が欠けていた」と説明。県議会で追及を受けた幹部が「責任を重く受け止めている」と謝罪に追い込まれた。今後は工事前に段階確認の手順を決め、上司らが決裁するなどの対策を講じる。


取材に対し浅川組は「現場のコンプライアンス意識の不足と会社との連絡不足に起因していると思う。全社員にコンプライアンス教育を実施し、信頼回復に努めたい」と話している。


<引用ここまで>


こんなバカげたことが起きるとは、信じがたいことである。でたらめとでっち上げの産物である。日本の土木技術は「世界最高」と評価されている、という言葉を聞いたことは何度もあるが、実態が「この体たらく」では、言葉を失ってしまう。


2012年に起きた笹子トンネルの崩落事故では、たくさんの死傷者が出て、その地域の交通にも大きな影響を与え、トンネルを管理していたNEXCO中日本には多額の賠償命令が下ったと記憶している。この事故は、トンネル工事そのものではなく、その後のメンテナンスが不適切だったことが原因とされていたと記憶している。


トンネルの壁にかかる圧力は当然高いものであり、コンクリート壁の厚さが30cm必要、とされたのも、その圧力に耐えうるため、という理由のあるものである。トンネルを掘った業者である浅川組の責任者は「コンクリートの厚みが確保できないことを認識していたが、工期を短縮したかったのでそのまま工事を進めた」と述べている。コンクリート壁の厚さだけでなく、力を支える「支保工」もまともに作っていなかったようである。


照明の施行業者が気付いていなければ、「完成した」張りぼてトンネルはおそらく数年で崩落を起こし、大惨事になっていたであろう。そしてその事故が、業者の「手抜き工事」に起因する、となれば、会社そのものの存続が不可能となるであろう。現場が、そういった未来のリスクよりも「納期」を優先したのはなぜなのだろうか?ここについては、現場責任者だけでなく、企業体質、県の姿勢も厳しく問われるべきであろう。


また、記事によれば、県の方でも「担当者が今回のようなトンネル工事の経験不足で、すべての進捗ごとに検査しなければいけないという認識が欠けていた」ということであるから、もうグダグダである。担当者の経験不足が予測されるのであれば、担当者を一人増やして、しっかりと経験のある人をつける必要があったのではないか?記事を読んでみたが、単純に「施工業者」だけの問題ではなく、「業者」と「県」の両方の責任である。


日本で行われている様々なこと、例えば、パーティー券問題でもそう、このトンネル問題でもそう、何か問題が起きるたびに見えてくるのは「場当たり的対応」、「長期ビジョンの欠如」だと感じている。いつから日本は、こんなに近視眼的に、場当たり的対応しかできない国になったのだろうか?


「一事が万事」「小事が大事」という言葉があるが、おそらく今回のことは氷山の一角なのではないか、と心配になる。別のトンネルも同じ事態になっている可能性は少なくはないと思われる。


今回のトンネル工事は結局「掘削」以外のすべての工程をやり直すことになるそうだ。このトンネルの受注額は20億円だったとのこと。20億円を使ってトンネルを作り、出来損ないだったために、業者側が自腹でトンネルを作り直すことになったわけである。納期が遅れた場合に予想された出費と、今回の再工事で予想される出費、どちらの方が大きいのだろうか?それが分かっていれば、このような手抜き工事はしなかっただろうに。

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