第714話 (虫嫌いの人禁忌)マジでびっくりした(深夜の捕り物帳)

結婚した当初から、「同じ布団では寝づらい」という私の希望で、妻と私は別々の布団で眠っていた。もちろん新婚当時は枕を並べて、子供ができれば川の字で寝ていたのだが、子供たちが大きくなってくると、6畳の和室で布団を並べて家族4人で寝るのは厳しくなってきた。そんなわけで私が仏間で寝ることとした。


寝る時以外はオープンスペース、としているのだが、どこか「私の部屋」的なものになってきた。当初は仏間は「客人用」のスペースとしていて、家族が寝る和室と、仏間の2か所だけ、エアコンを設置している。エアコンは、夏は一晩中頑張ってもらっているが、冬は起床時に部屋をあっためておくために使っており、日中、夜はエアコンをつけずに、服を着こんで過ごしている。


さて、そんな昨日の夜のこと。


いつもの時間に「もう眠たいから寝る~」といって仏間に向かい、ちょうど掛布団のカバーを洗濯した所だったので、カバーをつけて、寝床の用意をした。掛布団は羽毛で、購入した直後はものすごく暖かかったのだが、経年変化なのだろうか、だんだん「フカフカさ」もなくなり、いまは、羽毛布団+毛布2枚をかけて眠っている。


寝床の用意ができて、ふとエアコンの方を見ると、エアコンの上に見慣れない黒いパーツがついていた。


「あれ?あんなところにパーツ、付いていたっけ?なんだろう。しかも左右非対称のものだしなぁ?」と疑問に思った。


私は寝る前に眼鏡をはずしているので、あまり見えが良くない。老眼、近視、乱視はあるものの、車の運転でもしない限り、メガネがなくても何とかなるので、寝る前にリビングの小物入れの上に眼鏡を置いて眠っているのである。


遠目なのでよく見えないし、そんなところに黒いパーツがついていた記憶もなかったので、ゆっくりと近づいて行った。


だんだん近づくと、どうもその「パーツ」らしきものは、2本の細い糸がついていて、白い本体とは複数本の黒い配線でつながっており、黒いパーツの本体は少し浮き上がった状態だった。


その時点で初めて気づいた!


ちがう!これは「パーツ」ではなくて、「でっかいGだ!」と。細い2本の糸は触覚である。黒い配線は、足だ!。


体長は4cmくらいはあったかと思う。立派な成虫のGである。思わず悲鳴をあげそうになったが、何とか耐えた。いくら悲鳴を上げたところで、結局家族からは「お父さん、何とかして」といわれるのが関の山である。叫ぼうが、黙っていようが、結局闘うのは私である。「父」という役割の厳しさよ。とほほ…(私はGが大の苦手。26歳まで自宅で過ごしていたが、Gが出ると「Gが出た~!!」と半狂乱で逃げ回るのが常だった。成長したものだ)。


先ほど、暖房は「起床時のみ」と書いたが、このことが有利に働いた。部屋が寒いので、敵の行動は鈍っている。ただ、私には闘うための道具がない。となれば白兵戦である。


ティッシュペーパーを3枚ほど重ねて取って、右手で持ち、気合とともに敵をつかみ取ることにした。


「3,2,1,それっ!」と敵をつかみ取ったつもりだったが、あまり手のひらに、敵の存在感はなかった。一応ティッシュは握りながら、エアコン近くに置いてあった、私の医学書を詰めた段ボール箱に足をかけ、エアコンを上から眺めてみた。


エアコンの前面には上部に覆いがあるが、真ん中より後ろはカバーがなく、エアコンフィルターや熱交換機が見えている。


「うーん。敵を逃してエアコン本体の中に紛れ込んでいたら困るなぁ」と思いながら、ひとまずエアコンをつけてみた。


エアコンはスムーズに動き、送風孔から、奴が落ちてくる気配もない。困った…。これでは安心して眠れないではないか…。


でも、見つからなければしょうがないか、とあきらめ、握っていた右手を緩めた。


するとびっくり。私は敵をしっかりティッシュペーパーで捕まえていたようだった。大きなGが私の足元、毛布の上にポトリと落ちた。


「〇△◇✕☆~~!!!」と声にならない叫び声をあげそうになった。私の捕まえ方がうまかったのだろうか、傷一つないGが私の寝具にいる。緊急事態である。


叫ぶ間もなく、慌てて、もう一度Gを捕まえに行った。私の手のぬくもりで温まったのだろうか、先ほどより動きが良い。少し苦労をしたが、無事に、外れた足も含めすべてを確保。


Gが何か悪いことをした、というわけではないのだが、申し訳ないが「お命頂戴!」。ティッシュペーパーの上から、身体が破壊された感触を確認した。


このまま、自室のごみ箱に捨てるわけにはいかない。もう一度リビングダイニングに下りて、ビニール袋を用意。ティッシュペーパーを放り込んでしっかり口を縛り、ごみ捨て用の大きなごみ袋にビニールを投げ込んで、すべてを終えた。


まだ起きていた妻と長男に、「あ~っ!怖かった!怖かった!」といいながら、状況を説明した。とにかく、自分は恐ろしい闘いを終えたところで、誰かに話を聞いてほしかったんだろうと思う。


妻に話を聞いてもらい、慰めてもらってから、今度は布団に入った。


エアコンの排水管を上がってくるには、奴は大きすぎる。なので、小さい状態で排水管を伝って私の部屋に進入し、知らぬ間に成長していたのか?我が家はもうすでにGが侵入し、至る所に潜んでいるのか?どちらなのだろうか?どちらにせよ「考えたくない」ことである。


前職場を退職した時に持って帰ってきた医学書の山、今の職場にはそれを収納する本棚がないため、段ボール箱のまま置きっぱなしになっているが、それも非常によろしくないのだろう。


Gの名誉のために書いておくが、Gの本来の生活圏は「森林」で、主に枯れた植物や葉っぱなどを食べている森のお掃除屋さんである。雑食なのでもちろん、死骸なども食べるわけである。


残念なところに私の自宅はいわゆる「住宅街」の中にあり、いずこのお宅も庭があり植物を植えている。なので、本来はGがいて当たり前の環境なのである。夏になれば、夜に車で引かれたのか、歩行者に踏まれたのか、道路でペタンコにつぶれているGを見かけることは珍しくはない。人間が過ごしやすい環境はGにとっても過ごしやすい環境であり、私たちが「過ごしやすい環境」を求めると、Gがつきもの、というのが自然の摂理なのだろう。


う~~ん、しかしこれからどんどんGが出てきたら、本当に嫌だなぁ、と思いながら眠りについた。あぁ、本当に怖かったしびっくりした。

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