第701話 スーツを用意する。
長男君も高校3年生となり、「高校卒業」が視野に入ってきた。もちろん、その前に「大学受験」という大きい山があるのだが、彼の通っている学校、制服が全くないので、大学入試の際に、「面接」が設定されていると、そのための服を用意する必要がある。もちろん卒業式も、「制服がない」ので、きちんとした格好をさせなければならない。
そんなわけで、長男君にスーツ一式を購入することとした。彼は普段、UNIQLOなどで服を購入しているのだが、今回は紳士服屋さんにお出かけした。本当は店員さんの「プロ」としての意見を聞きながら購入したかったのであるが、そこについてはあまり意見を伺うことができなかったのが残念であった。
スーツは紺のスリーピース、Yシャツは白、と無難でどこに着て行ってもおかしくないものを選んだ。ある程度格式ばったところでも、少しカジュアルなところでも、濃紺のスーツであれば問題となることはない。
ネクタイについては、妻と私の意見が分かれた。基本的には、スーツと同系色が無難なので、青~紺のネクタイを私は提案したが、長男君のノリは6割くらいだったか?柄は、無地と小さなドットを提案した。どちらもフォーマルな場所に着けていってもおかしくはない柄である。あまりピンとこなかったようだったので、えんじ色の、白い小さな点の模様のネクタイを提示した。ネクタイが映えて格好いい。私の推しはこのネクタイを一番とした。
妻は青系統のネクタイで、ストライプ柄を提案してきた。ストライプ柄は、あまり日本では問題にならないが、西洋諸国では、ストライプの柄によって、「特定の学校、学部、団体」に所属していることを示唆する場合がある。スーツに合わせても、個人的には今一つだと感じた。
本人の希望、店員さんのお勧めで、ネクタイはえんじ色のドット柄で決着した。うん、わが息子ながら、男前ちゃんである。
会計を待ちながら、ふと自分のことを思い出していた。
私も18歳の時、継父から「これから必要になるものだから」といって、スーツを用意してもらったことを思い出した。どこの店にお世話になったのかは忘れてしまったが、紺のツーピース、白いワイシャツと、そしてネクタイは、継父が「このネクタイ、いい感じやん」と推してくれたものだった。ワインレッドのロイヤルクレストだったか、ストライプだったか? ストライプはグリーンにゴールドの縁取りがあって、うまくネクタイをつけると、ちょうど結び目の少し下に、ラクダだったか、ポロをしている馬だったかの柄が来るようになったものだった。
今思い出しても、あのネクタイ以上に格好いい柄と色調のネクタイを見たことがない。非常におしゃれで、フォーマルな場所でも浮くことのないネクタイだった。ネクタイとの偶然の出会いと、継父のセンスが偶然マッチしたのだろうか?残念なことに、そのネクタイは本当に「使い倒した」ので、結び目となる部分がひどくほつれてしまい、20年近く前に「お疲れさま」としてしまった。
それを思い出すと、意識したわけではないが、私が18歳の時に用意してもらったスーツと、今回長男君のために用意したスーツ、ほとんど同じような感じである。「無難に」そろえようとするとそうなるのだろう。
自分が生まれてから、18歳になるまで、ずいぶんと長いように感じたのだが、長男君が「オギャー!」と産声を上げてから、今日まで、本当にあっという間だったように思う。
スーツを選んでもらう側から、スーツを用意する側へ、30年以上の時が流れたが、あっという間である。あの時の継父はまだ38歳だったはずだ。今の私は52歳。
あの時、継父はどんな思いだったのだろうか?今の私は、大きくなったが、まだ少し手がかかる長男君をかわいく見つつ、でも、さらに成長して私たちの元から旅立って、自分の家族を作り、自分の世界で生きていくんだろうなぁ、という寂しさも感じている。継父も、2年前から「自分の息子」となった私をみてそう思っていたのだろうか?
継父に、「長男君のスーツをあつらえたこと、その時に、私が継父にスーツをあつらえてもらったことを思い出したこと」をLINEで伝え、「ありがとう」と送った。こうやって、想いは親から子供へとつながっていくのだろうなぁ、と思った次第である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます