第625話 勘違いを生む記事だな

10月から、COVID-19病棟への公費負担が減り、来年4月からは、通常医療の範囲でCOVID-19の治療を行なうこと(つまり、コロナ病床を無くすこと)を、厚生労働省は目指している、という内容の記事が、今朝の読売新聞で載っていた。公費負担を受けることのできる病棟も、「中等症Ⅱ」以上に対応できる病棟のみとなり、負担額も減少する、とのことであった。


8月から9月にかけて、「第9波」が訪れていた、という識者の声をしばしば耳にしたが、それは「正しかった」と考えている。実際に、現在当院で運用している発熱外来、また連絡なく受診された「風邪症候群」を思わせる症状の方には、COVID-19抗原検査を行なっていたが、同時期はほぼ全員が「陽性」となっていた。病院そのものも、今回は病棟単位ではなく、病院全体で「クラスター」が発生し、2~3週間ほどは、新規入院を受け入れられない状況になった。


夏休みに入る直前だったか、次男がCOVID-19を発症したが、運よく、残りの3人は発症することはなかった。ただ、「発症」していなかっただけで、「無症候性感染」として、ウイルスを撒いていたかどうかについては、それを否定するだけの根拠がない。


今でも、COVID-19は高齢者にとっては、命にかかわることのある疾患であることは否定できない。かつてのように、「ウイルス性肺炎」を来し、サイトカインストームと低酸素血症に起因する「多臓器不全」で死亡する疾患ではなくなった。おそらくECMOを回さなければならない、ということは極めてまれになったと思われる。しかし、高齢者はCOVID-19感染で、ほとんどの場合、食欲は激減、活動性も著明に低下し、いわゆる「療養期間」を過ぎても「回復のステージに入った」と感じることは稀である。今回のクラスターでは、私の担当患者さんは4名感染(そのうち一人は退院後に発症)し、全員、命を落とすことはなかったものの、食欲は著減、ADLも明らかに低下し、療養期間から1か月近くたったが、「罹患前」のレベルには戻っていない。


当院はいわゆる「亜急性期」病院であり、重症の患者さんを複数管理できるほどの設備もない。病室も、「感染症」のための特別室、などというものはなく、いわゆる、「一般病棟」のみである。


そういうわけで、当院は「厚生労働省」の思惑通り、「通常の病室」でCOVID-19を管理していた。


新聞記事でも、「通常の病室」での管理を厚生労働省は目指している、と記載されていた。


そのように聞くと、イメージとして、大部屋に「COVID-19」の患者さんも、その他の患者さんも混ぜて管理していく、というものを想像するかもしれない。しかしそれは「」である。


ご存じの通り、「COVID-19」の感染力は尋常ではない。少なくとも「インフルエンザ」の5倍以上は感染力がある。「インフルエンザ」は「飛沫感染」であり、病棟にどうしても余裕がなければ、「飛沫感染対策」を行なうことで、大部屋にインフルエンザの患者さんと他の疾患の患者さんを同室させてもクラスター化を防ぐことは可能である。


しかしながら、COVID-19についてはそういうわけにはいかない。COVID-19感染者と、他の疾患の患者さんを同室に置けば、いくら換気に気を付けても、きわめて高率にその部屋の患者さんが全員COVID-19に感染する。当院では2階病棟は大部屋は4人~6人部屋、3階病棟は5~6人部屋だったが、実際に、どちらのフロアも、部屋から一人患者さんが見つかると、数日のうちにほぼ全員が感染している状況になっていた。2階病棟ではすべての大部屋で患者さんが発生し、3階病棟も患者さんが出なかった大部屋は一部屋だけであった。部屋ごとの隔離、とは言いながら、ほぼ入院病棟すべてが「コロナ病棟」状態であった。


そんなわけで、一つの大部屋に、COVID-19の人も、他の疾患の人も混ぜて、などという管理には「」なることはない。COVID-19の患者さんは結局まとめて「」しなければならない。これまでは「コロナ」という形で管理していたものを、「コロナ」という形で「部屋ごとの隔離、管理」という形に変わるだけである。


これからも、あらゆる病院で、「院内クラスター」は発生し続けるだろう。それでも病棟を回していかなければならない。


入院していようといまいと、いや、むしろ「入院」している方が、COVID-19感染リスクは高くなるだろう。入院中にCOVID-19に感染し、それで命を落としたとしても、それはだれの責任でもない。「COVID-19」を通常の病棟で診ていく、というのが国の方針なら、その責任は医療従事者ではなくて、「」である。


元気で若い人の中にも、「COVID-19後遺症」で苦しむ人も出るだろう。味覚障害や食欲低下だけでなく、訳の分からない神経症状であったり倦怠感であったり、いまだに解決できない症状は多い。


、というのが「with コロナ」という選択であり、我々にはそれしか残されていないのである。


今後も流行の波が来るたびに、医療のひっ迫は起きるだろう。入院病床が足りなくなるのは日常茶飯事になるだろう。それはもう如何ともしがたいのである。


話が散漫になったので、最後に整理しておく。「COVID-19」は原則通常の病棟で管理する、ということになっているが、それは、「病室単位での隔離」ということで、「隔離せず、他の疾患の人と同じ部屋で療養」とはならないこと、「COVID-19」患者さんが病棟に入院、あるいは病棟で発生した場合は、「クラスター化」はほぼ不可避であること、高齢者にとってCOVID-19は、「もともと弱ってきていた身体」に、最後の一撃を与える疾患であること、それらを受け入れる生活様式が「with コロナ」ということであり、それ以外に我々に選択肢はないこと、である。


暗い話となってしまったが、しょうがないことである。またそのうちに、患者さんが増えて、「第10波」が来るのだろうと思っている。ちなみに当院も、周囲への周知が整い次第、「発熱外来」をやめ、一般外来で「COVID-19の可能性がある」患者さんも診察することになった。もともと発熱外来枠が1日に6枠しかなく、大流行の時期には十分に患者さんを診察することができなかったわけである。待合室にいる患者さんへの感染のリスクは上昇するが、如何ともしがたいところである。それに「早くCOVID-19を5類感染症に」と騒いでいた人たちは、「」を望んでいたのであろう。


世の中の希望に沿うのみであるし、大きな流行の波が来ていれば、そうせざるを得ないだろう、というのも実際のところである。

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