第610話 I'm a Polluted man!
私が小学生時代だった1970年後半~1980年前半のころ、日本ではようやく、「公害」に対しての意識が高まってきたころだったように記憶している。授業で、4大公害として、「水俣病」「新潟水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」を学んだり(小学生のころから今までの時間の流れよりも、「四大公害」が問題になってから「教科書」に記載されるまでの時間が短いことに、改めてびっくり)、身近な川であった「神崎川」が日本で有数の「汚い川」であったりと、あまり「化学物質汚染」が注目を浴びる前の時代だったと思う。
実家から直線で200mもないところに、市のごみ焼却場があった。1学年上の近所のお兄ちゃんのお父さんが、焼却場で働いていたことから、焼却場が休日の日曜祝日には、そのお兄ちゃんをはじめとして、近所の子供たちで「肝試し」と称して、焼却場の探検を行なっていたことを覚えている。炉の周囲を回って、焼却場の奥の方にある階段から地下通路に下りる。地下通路は人が一人通れる幅の、柵も何もない通路と、その横には、焼却した灰が落ちてくる水路(?)(水が張られていたことを覚えている)があり、その地下通路を抜けて地上に上がると、その横には灰をトラックに積み込むベルトコンベアがあったように記憶している。
その「肝試し」、というか、「探検」というか、「不法侵入」をすると、出口ではみんな煤で真っ黒になっていた。
私たちが中学生だか高校生だかのころ、「焼却場」で発生する「ダイオキシン」が問題となり、各学校にあった簡易の焼却炉は撤去され、焼却場も新しい炉に改修された。
という事は煤で薄汚れていた私を含むみんなは、それ相応に「ダイオキシン」に汚染されていたのだろう。無知というのは恐ろしいものである。
近年PFAS(有機フッ素化合物)による環境汚染が問題となっている。PFASは自然界で分解されず、ものによっては発がん性を有するものもあり、アメリカではPFASを製造していた3M社が訴えられ、数百億ドルの賠償金を支払うことになったりしている。
今朝のラジオ、関西版のニュースでは、大阪市や近隣の地下水から複数の地点で、基準値を超える高濃度のPFASが検出された、と報道されていた。その地域の中には、私が育った街も含まれていた。
さらに悪いことに、私の住んでいた地域の水道水は、くみ上げた地下水と府営水道の水を3:1に混ぜて供給されていた。以前勤めていた診療所も同じ水を使っていた。
地下水を多く含んでいるので、おそらく硬度は高いのだろう。診療所の電気ポットは、週に1回、ポットの洗浄をしていても、内部におそらくカルシウム系の沈着物が付着し、数年で買い替えることになっていた。
私たちが中学生のころは、夏になると水道水が独特の「臭気」を放っていたが、活性炭など、高度に水処理をすることで、最近の大阪の水道水は良質の水を供給してくれている。
前職場では、診察中、テーブルにお茶を用意してくれていたが、私は猫舌なので、夏も冬も、その水道水で作った氷を真空断熱コップに入れ、その水道水を入れて自分の診察テーブルに置いていた。つまり、その水を「うまい」とガブガブ飲んでいたわけである。
子供時代は24年間、その後診療所で10年間、34年間飲んでいたわけだ。
気にし始めるとしょうがないが、私の身体はそれなりのダイオキシンと、それなりのPFASで汚染されているようである。今朝のニュースはギョッとしたが、それはそれでしょうがない。それも含めて、「人生」を生きているのである。なんとなれば、抗菌薬の中でも「ニューキノロン」と呼ばれる一群の薬品。抗菌作用が強く、「ここ一番」に頼りになる薬だが、構造にフッ素原子が入っているので、これも、自然界に放出されるとおそらく分解は進まないのだろう。研修医時代に、ニューキノロンを処方すると、同期から「あぁ、また自然破壊をする…」と言われていたが、それもそういう事なのだろう。
「生物濃縮」を持ち出すまでもなく、食物ピラミッドの頂点辺りに人間が存在しているので、気を付けていても、私たちはたくさんの人工化学化合物で汚染されているのだ。如何ともし難い。などと思った次第である。
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