第604話 たまったものじゃない!(529話の続き)1
529話「ふざけるな!」で取り上げた、中河内救命救急センターでの出来事、残念と言うか、何というか、医師が「送検」されることとなった。
読売テレビがニュースとして2分ほど元患者さん、医師、第三者としての医師のインタビューをまとめて放送していたので、それを見た。
529話にも書いたことだが、経口あるいは経鼻挿管から2週間ほど経ち、その時点で抜管のめどが立たなければ、気管切開術を行ない、気管切開チューブを挿入して呼吸器管理をするのが一般的である。理由としては、死腔(呼吸器を構成する臓器の中で、ガス交換に関与しない部分の容積)の減少、呼吸仕事量の減少、経口、経鼻挿管に比べて本人の不快感が少ないこと、肺炎などの原因となる口腔内汚染に対してのマウスケアが容易になることなどが挙げられている。
放送されていた映像を文字起こししたものから、一部引用させてもらう事とする。
<以下引用>(ソース:Yahooニュース)
発端は人工呼吸器の装着方法でした。医師は口から入れていた人工呼吸器をのどを切開して通す方法に変更することを提案。しかし、男性が拒否すると、医師は…。
被害にあった木野正人さん
「『今突っ込んでる人工呼吸器、一回止めてみましょうか、どれだけ苦しいか』と言われたので『ほな止めてみい』と言ったんですね。(すると医師は)実際止めたんですね」
男性は一時的に呼吸の状態が悪化。その後、回復しましたが、警察に被害届を出しました。
<引用ここまで>
気管切開術はれっきとした手術であり、それ相応のリスクを有している。2週間をめどに気管切開、とはいっても、例えば、もう1週間すれば、抜管(挿管チューブを抜くこと)できそうだ、という状況なら、無理に気管切開はしない。気管切開部が落ち着くまでに、やはり2週間程度かかるからである。
という事を考えるならば、その時点で、その後1か月程度は人工呼吸器管理が必要だったという評価だったのだろう。
そして、報道では、ものすごく大事なところを(意識的に、かどうかは知らないが)飛ばしている。
医師は「人工呼吸器での治療が続くから、気管切開が必要」という説明を始めたはずである。出発点で医師に「人工呼吸器を外す」という選択肢は全く頭の中になかった、と考えてよかろう(普通の医師なら、そうであろう)。それがなぜ「人工呼吸器を外すかどうか」という話になったのだろうか?仮に、気管切開が嫌、と言うだけなら、
「気管切開はしたくありません」
「経口挿管を継続するリスクとして~~~などがありますよ。気管切開した方がいいと思います」
「いや先生、そのリスクを承知の上で、気管切開をせずに管理してほしいです」
という流れになるだろう。大きく脱線して人工呼吸器を外す、外さないの議論にはなりようがないのではないか?
誰が話をこじらせた?
そのやり取りは、法廷闘争では明らかにされるであろうが、報道としても、ある程度明確にすべきではないか、と思う。
で、被害届を出した本人が、自分で「外してみぃ」と言った(筆談なので「書いた」)と言っているわけである。これは、非常に大きなことである。
私が医学生の時、「法医学」の授業で、「医行為」の法的解釈の講義を受けた時のことを覚えている。
「現法制では、『医行為』は原則としてすべて『傷害罪』と解される」とのことだった。ただし、「①有資格者が、②本人の同意を得て、③その当時の医療水準に照らして適切」と解される場合には、その「違法性」を「問わない」、というのが法律上の『医行為』の立ち位置である、と記憶している。「違法ではない」というわけではなく、「違法性を問わない」というところが重要である(ぶっちゃけると「お目こぼし」に過ぎないわけである)。
なので、本人が「人工呼吸器を外せ」と言っているのに外さないのは、上記②を満たさないので、人工呼吸器をつけることそのものが「傷害罪」として成立するのである(本人の同意を得られていないので)。しかも本人は、しっかりとやり取りを覚えているわけである。正常な理解力を持つ大人が、医師の指示に従わず、自分の身に危険が及ぶ行為に及んだとしても、「法的」にそれを抑止することはできないのである。繰り返しの制止にかかわらず、その医療行為の中断を本人が希望すれば、受け入れなければ「傷害罪」である。
という点で、この男性は自分の発言「外してみぃ」の責任を取らなければならない。というか、子供のケンカである。
529話では、確か、「気管切開を行なって、人工呼吸器のサポートを継続する必要がある」と説明した医師に対して、「人工呼吸器はもういらない」というような発言をして、その結果として、「じゃぁ外してみましょうか?」「外してみぃ」「ほな、外しましょ」という流れだったと記憶している。
本来は、「気管切開をするかどうか」のはずが「人工呼吸器を外すかどうか」の話に変わっていったのは、少なくとも医師の責任ではあるまい、と思っているのだが、どうなのだろうか?
長くなったので次に続きます。
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