第589話 あぁ、久しぶりに頭の痛い記事(その3)

またまた、続きです。


著者は、COVID-19のクラスターになりうると批判されるものは「楽しいこと」である一方で、実際にクラスターの原因となっているのは「批判を受けない」高齢者施設などが多く、これも、世間のゆがんだ認知の影響だとしている。


<以下引用>

彼らが言うところの【悪者】とは、「クラスターが発生しそうな場所」であるが、2023年4月24日~30日の「全国における施設別のクラスター発生割合」は以下の数字だった。


高齢者施設:65.52%、障がい者施設:5.75%児童施設:2.3%、学校施設:5.75%、医療機関:19.54%、飲食店:1.15%、事業所等:0%、その他:0%


高齢者施設と医療機関を合わせると85.06%で、【悪者にならない存在】の代表格である両施設がまさに「悪者」なのである。しかも高齢者施設など100%がマスクし、ほぼ全員がワクチンを規定の回数を打っているだろうに、クラスターの最大の発生源ではないか。こう指摘するとまた推測を元にした屁理屈が来る。


「高齢者施設の入居者は認知症の方もおり、マスクを適切につけられないケースもある」


いやいや、マスクを適切に着けている人間なんてほぼいない。不織布マスクを着用したうえで、四辺をビニールテープで密閉し、さらにその上からN95マスクを着けるのが「適切なマスクの着用」でしょうよ。認知症の人を悪者にするなよ。

<引用ここまで>


いやいや、高齢者施設が100%マスクしている、なんてとんでもない認識である。筆者が「高齢者施設」の実情を全く知らないことがよくわかる。

さらに、私が非常に問題だと思うのは、筆者の言う「正しいマスクの付け方」である。

不織布マスクの上からN95マスクをつけるのが「正しいマスクの付け方」なんて、誰に教えてもらったのだろうか?知識不足丸出しである。


N95マスクは、皮膚の上にそのままつける。マスクと顔の皮膚の間に漏れがないかを、リークテストをして確認する。これがN95マスクの正しい着け方である。顔の皮膚とN95マスクの間に介在物があれば、その隙間から粒子が入ってきて、意味がない。


医療現場によっては、N95マスクの上に不織布マスクをつけているところもある。ただこれは、「感染予防」の観点ではない。


「N95マスク」はかなり高価なので、本来は「ディスポ(使い捨て)」なのだが、それでは病院が破産してしまう。なので、N95マスクは止むを得ず、数日間使いまわしするのが「常」となっている。N95マスクの上に不織布マスクをつけているのは、ちょっとでも、N95マスクにトラップされるウイルス量を減らしたい、ということなのである。N95マスクをちょっとでも長く持たせるためにN95マスクの上に不織布マスクをしているのである。


マスクと言えば、著者はこのような論を立てている。


<以下引用>

だが、マスクの隙間は5μmで、30μmの花粉からは守ってくれるものの、PM2.5の2.5μmよりも大きい。ましてや0.1μmのウイルスをどのようにして防いでくれるのか。「飛沫を飛ばさないためだ」と言うのだろうが、それは元々咳が出る人間が周囲への配慮のために着用していたものであり、健康な者が着けることは想定していなかった。もはや口と鼻から出る「息」でさえ「飛沫」扱いされたのである。


WHOも含めた世界の見解の趨勢が空気感染になり、マスクの無意味さが分かっても相変わらず「飛沫恐怖症」の人々は多い。飲食店の店員がマスクをしていないだけで恐怖だったとツイッターに書き、「飛沫トッピングなど頼んでいない!」とキレるのである。空気感染にマスクは意味がない、と言っても「それでも着けないよりはマシだ」と来る。凄まじい信心である。

<以下余白>


まず、COVID-19の感染経路として、現時点では「エアロゾル感染」がありうるとされているが、「エアロゾル感染」と「空気感染」、別物である。混同してはいけない。


マスクの隙間は5μmで、エアロゾル感染の粒子は0.5μmである。もちろん単純に考えれば、隙間だらけである。しかし、小さな粒子の世界では、普段我々があまり意識しない力が大きな意味を持ってくる。一つは静電気力、もう一つはファンデルワールス力(分子間力)である。


不織布マスクの繊維は帯電しているので、マスクの隙間以下の大きさの粒子も静電気力でトラップすることができる。


ファンデルワールス力は、物理で習ったか、化学で習ったか、はっきりとは記憶していないが、「力の本質」は不明であるものの、「分子同士が引き合う力」である。実社会で、「ファンデルワールス力」をうまく利用しているものは、「接着剤」である。


表面がスベスベだ、と感じるもの同士をくっつけると、それを離すのに力が必要だ、ということはしばしば経験することだと思う。この時、二つの物質の間に働いている力が、「ファンデルワールス力」である。


現実には、表面がスベスベ、と思っても分子のレベルではデコボコしているのが常である。接着剤は、接着するもののミクロのレベルの凸凹を埋め、また接着剤の分子同士は接着させると共有結合などで重合してしまう。なので、接着面ではくっつけたいものと接着剤がファンデルワールス力で引き合っており、接着剤そのものは共有結合で重合しているのである。


強力な接着剤なら、金属同士を接着剤で接着させ、それをはがそうとしても、接着面ははがれず、金属のミクロの傷が入っているところで離断してしまうことが珍しくはない。接着剤の宣伝用画像などで、そのような画像を見た記憶がある。ということでファンデルワールス力は、ミクロの世界では非常に大きな力なのである。


「ファンデルワールス力」をご存じないとは、科学的素養のある人とは言い難かろう。


エアロゾル存在下で各種マスクのエアロゾル吸入量の比較をスーパーコンピュータ「富嶽」でシミュレーションした結果が公表されていたが、不織布マスクであれば、エアロゾルの吸入量が20~40%に低下した、との結果が出ている。


ウイルス感染症では、感染が成立するためには、ある程度のウイルス量が必要であることが分かっている。文献を見つけることはできなかったが、信用できる某病院のサイトでは、COVID-19感染を成立させるには、ウイルス粒子を約100万個、体内に入れなければならない、という記載があった。


不織布マスクをつけたからといって、100%の感染予防ができないのは分かり切っていることであるが「富嶽」のシミュレーション、ある程度のウイルス粒子の吸引が感染成立に必要、ということを考えるなら、不織布マスクの装着で、マスク無しに比べて、60~80%のリスク低減、あるいは少なく見積もっても感染リスクは半減するわけである。マスクをつけるだけで感染リスク半減である。


COVID-19感染の高リスクの場所は、人が「密」に集まって、「空気のよどんだ」場所である。そういった場所に行くときに、「感染リスクが半減する」アイテムをつけていくのがそんなにおかしいことだろうか?少なくとも、不織布マスクが「意味がない」ということは大きな間違いである。


著者は「飛沫を飛ばさないようにするためだ」と書いており、咳などをしていない、普通の息をしている人が装着するのは意味がない、と書いているが、基本的に安静時の呼吸であれ、咳嗽やくしゃみであれ、鼻や口から出てくるのは飽和水蒸気の状態で出てくるので、やはり粒子径は飛沫と同様のサイズである。なので、感染者が不織布マスクをすることは、やはり大変意味のあることである。


実際、「空気感染」する「結核」の病棟では、患者さんは不織布マスクを着用、その他の人はN95マスクを装着している。空気感染する疾患の患者さんは「不織布マスク」でよいのである。


<以下引用>

多くの国ではマスクの義務化は2022年初頭には終了。欧米でマスクをする者は稀である。東アジアと東南アジアではまだマスクを着けている者は多いが、互いに干渉はしあわなくなっている。

<引用ここまで>


欧米でマスクをするものは稀である、というのは、COVID-19に対する意識が高いからではない。欧米では、もともと「マスクをつける」という行為に対して強い拒絶感を持っている社会なのである。なので、COVID-19のために嫌々させられていたものなので、その必要性が少しでも減れば、マスクを外すのである。ちなみに、その拒絶感は、「口元が見えなくなることで、コミュニケーションに大きな支障をきたすから」だと推測されている。


そのあとも本文は続き、ワクチン批判が続いていくが、もうそれは取り上げない。現時点では、私も「ワクチンを打つか打たないかは、ご自身で決めてください」と思っているからである。そして、最後の文章が以下である。


<以下引用>

さて、日本はいつまで“コロナ禍プレイ”をやり続けるのか、この3年間、私自身相当なバッシングを受けながらコロナ騒動を批判してきたが、まぁ、当然の帰結だわな。結局、私のようなコロナを怖がらず、感染対策にもワクチンにも意味はないしウイルスは根絶できないという現実主義者のことをデイドリームビリーバーは理解できないのだろう。


貴殿らは永遠にコロナを恐れ、マスクをし続け、2050年に61回目のワクチンを接種してください。その時もオミクロン型であったとしても、疑問を抱かない人はもう処置なしだ(この皮肉が分からない人は一生分からない)。

<引用ここまで>


「ウイルスは根絶できない」ということには賛成するが、「感染対策にもワクチンにも意味がない」と言い切れるのは、「現実主義者」ではなく、「不勉強者」であると私は思う。少なくとも、「密」になるところでは不織布マスクをつけ、こまめに手指消毒することは、COVID-19を避けるだけでなく、他の疾患に罹患しないためにも適切な行動だと思っている。


私は医師として、高齢者の命を奪う可能性のあるウイルス感染症の一つとして、インフルエンザやRSV、ヒトメタニューモウイルス、ノロウイルスなどと同様に、COVID-19の流行を恐れ、感染対策、クラスター対策をしていくだろう。


COVID-19だけではなく、インフルエンザ、RSV、ヒトメタニューモウイルスなどの感染を避けるため、拡散を避けるために不織布マスクを、特に仕事中は着け続けるだろう。


多分、2050年には、mRNAワクチンの長期成績も出ているであろうから、その時まで生きていれば、その結果を見て、ワクチンは考えてもいいだろう(少なくとも、インフルエンザワクチンと同様に、毎年、抗原の種類は変更されていくだろう)と思っている。


長くなっただけでなく、あまり価値のない文章になってしまいました。すみません。

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