第588話 あぁ、久しぶりに頭の痛い記事(その2)

続きです。


またこの記事には、論理のすり替えが多いのも頭が痛い。


<以下引用>

 欧米各国は2022年初頭には「対策しても無駄。もう気にしていられない。昔に戻ろう」とばかりにこのバカ騒動から撤退。アフリカ諸国はそもそもほぼ気にしていなかった。「もっとヤバい感染症、時々流行るんですよ……」という気持ちもあったかもしれない。


それなのに日本は「対策をすればコロナは撲滅できる」という根拠レスな根性論で対策を続けた。

<引用ここまで>


「対策をすればコロナは撲滅できる」なんてことはもう誰も考えていないだろうと思うのだが。何のための対策か、と言えば、「クラスターが起きて、医療崩壊が起きる」ことを避けるため、ということだろうと思うのだが。


<以下引用>

ちなみに風邪にもインフルエンザにも特効薬は存在しない。コロナに特効薬ができるのも現代の科学では無理だろう。


<引用ここまで>


「特効薬」の定義が不明なので、何とも言えないが、抗インフルエンザウイルス薬は存在しており、抗COVID-19薬もあるのだが、何を言っているのだろうか?


<以下引用>

 感染症分類が5類になって以降、マスクを外す人が増え、コロナ報道も減った。だが、専門家とコロナ脳たちは相変わらずで、「ウイルスの性質が変わったわけではない」「基本的な感染対策は必要」を言い続け、定点観測での陽性者数が増えたら「第9波はこれまでよりもヤバくなるかもしれない」などと煽り発言をやめようとしない。


だから、変な話だが、日本人の多くは「感染症依存症」という何が何やら分からないヘンテコな精神状態に陥っているのだ。メディアも同様で、かつてはそれほど危険視していなかったRSウイルス、インフルエンザ、ヘルパンギーナ、手足口病の流行を深刻ぶって報道。これらは数年前までは「風邪」「夏風邪」などと称されていたものである。


<引用ここまで>

ここでも、おかしな論理が繰り広げられている。


「ウイルスの性質が変わったわけではない」、「基本的な感染対策は必要」、これは当たり前のことを当たり前に言ってるだけではないか?コロナが5類感染症になっても、ウイルスの性質は変わっていない。当たり前である。高齢者が感染すれば、命がけの疾患であることには変わりがない。


現実に、私の訪問診療を受けている患者さんがCOVID-19に罹患し、「命を落とすのではないか」というほど状態が悪くなり、発症から3週間以上たっているが、まだまだ衰弱が著しく、「回復してきた」とは言い難い状態である。デイサービスなど定期的に自宅から離れて利用しているサービスと、月に1回お楽しみで、介護タクシーを使って喫茶店の「モーニング」をご夫婦で利用しておられた(当然マスクをつけて)のだが、どこで感染したのか分からない、というのも、COVID-19の感染力の強さが変わっていないことを示しているわけである。


流行性疾患は何もCOVID-19に限らない。なので、「基本的な感染対策は必要」というのは本来日常生活を送るうえで必ず行うべきものである。「体調管理も仕事のうち」なんてこともよく耳にするが、それと同じことであろう。基本的なことを繰り返すのは「煽っている」のか?


また、「RSウイルス、インフルエンザ、ヘルパンギーナ、手足口病の流行を深刻ぶって報道」とあるが、「これらのウイルスが流行している」ということを報道しているわけではない。これらの疾患が、「コロナ流行期」「コロナ禍以前」の統計と比べても、「圧倒的」に流行している、と報道しているわけである。


これらの疾患は、「不織布マスク、こまめな手洗い」で予防可能な疾患なので、図らずも、「COVID-19対策」がこれらの疾患の流行を防いでいたこと、マスクを外したことで、爆発的に流行していることを示しているわけである。RSウイルスは乳幼児期、高齢者に感染した場合には致死的になることもある(初期研修医時代、小児科研修を受けた2か月間で、RSウイルス感染による汎細気管支炎、低酸素血症のため、3人のbabyちゃんがICU管理となったことを覚えている)。


繰り返しになるが、報道された理由はこれらの疾患が、「これまでにないほど」流行している、ということであって、ただ流行しているから報道、というわけではない。という点でも「論点のすり替え」ではないかと思うのだが。


<以下引用>

 さて、ここからは、専門家が作り上げ一般人が信じ込んだ「設定」について見ていこう。まずは【医療崩壊】である。


<中略>


2023年6月、「沖縄が医療逼迫している!」とメディアと医クラは大騒ぎ。そして「感染症依存症」の人々は仰天しパニックに陥った。


あのな、貴殿らが「コロナ陽性で熱が出ると私は死ぬ!私の母は基礎疾患があるからうつしては絶対にならない! 病院様~、診てください!」と慌てるのがいけないの。本来自宅で休んでおけばいいだけの人まで救急車で病院に来るから、貴殿らのいうところの「医療崩壊」が起きていたのである。


沖縄県医師会は6月29日、県庁で緊急会見を開き、県民に感染対策を呼び掛けた。会見では、県内の入院患者が950人を超え、重点医療機関の医療従事者のうち565人が休職していると発表。病床・人員不足を懸念する会見だった。


<引用ここまで>


「本来自宅で休んでおけばいいだけの人まで救急車で病院に来るから、貴殿らの言うところの『医療崩壊』がおきていたのである」の言葉は、半分は、いや、3/4くらいは正しいと思う。患者さんが爆発的に増えれば、確かに外来診療は破綻する。それは正しい。


では、その下の文章で、「県内の入院患者が950人を超え」ということをどう解釈するのだろうか?自宅で経過を見ることができる人を入院させることは、基本的にはないと考えてもらいたい(だって、医療崩壊しているわけであり、そんな余裕はないはず)。なので、この入院患者さんたちは「本当に入院治療が必要な人たち」である。


以前にも記載したが、急性期病院であれ、慢性期病院であり、病棟の損益分岐点は、病床稼働率90%程度である。COVID-19の流行のない時点で、各病院の病床数は割り当てられているのである。また、逆に病床使用率が90%を超えてくると、入院制限をかけなければならないことが出てくる(例えば、男性部屋が足りないので、男性は受け入れられない、など)。


COVID-19流行以前から、病棟はカツカツで、「生かさず殺さず」ではないが、病床利用率90%程度を割らず、増やさず、ということで各病院は生き残りをかけて運営してきた。もちろんCOVID-19流行後も、COVID-19病床を作るために「許可病床数」を引き上げる、ということは行われていない。


仮に「病床数」を増やせば、それに釣り合うだけの看護師、介護士を雇用する必要がある。医療機関にそのような余裕もなければ、労働市場に看護師さんが溢れているわけでもなく、慢性的に「人不足」である。


そんな中で、急性期に1000人近い人員が新たに入院(しかも隔離が必要)となれば、病棟はパンクである。なので、本当に重症者だけが病院を受診していたとしても、「医療崩壊」していたわけである。著者の視点は浅いなぁ、と感じる。


<以下引用>

たとえば、沖縄県立中部病院は以下の制限をした。


「小児の夜間休止」「心臓血管外科患者の紹介・救急受け入れ」「新規外来紹介患者、救急紹介患者」「消化器内科診療」「耳鼻咽喉科診療」。6月22日の発表では、患者25人、職員19人の陽性が明らかになっていたのだ。こうした制限の理由は以下の通り。


〈 新型コロナウィルス感染症の増加に伴い、職員の感染・濃厚接触者増加によるマンパワー不足のため通常医療が提供できない状況となっております。(中略・ここでは各科の制限状況を説明)。皆様にはご不便、ご迷惑をおかけいたしますが、科の体制がひっ迫している現状をご理解頂き、ご協力を賜りますようお願い申し上げます 〉


5類になったというのに、いまだにいわゆる「濃厚狩り」を行い、休職者を増やしているのである。まさに「セルフ医療逼迫」とでもいえよう。


本当に体がツラい人だけが休めばいいのに、元気な濃厚接触者まで休職させられた。「患者さんを救いたいのに……」と考える休職者もいることだろう。それなのに病院の方針として、闇雲に検査をした結果、医療逼迫を招く結果となった。


ちなみに、沖縄が医療崩壊したと言われた6月21日の重症化病床は27床中5床の使用。これが医療逼迫の実態だ。

<引用ここまで>


「本当に身体がツラい人だけが休めばいいのに、元気な濃厚接触者まで休職させられた」とのことだが、一般企業であれば、それでいいと思う。しかし残念ながら、沖縄県立中部病院と言えば、沖縄の中でも「要」となる病院である。少しでもクラスターは小さくしたい。ちょっとした感染が「命取り」になる患者さんがたくさんいるのである。


「2類であろうが5類であろうが、ウイルスの性質には変わりがない」と再度言わせていただきたい。極力院内クラスターを起こさない、小さくしたい、と考えるなら、「疑わしきは仕事させず」である。医療従事者が感染すると、クラスターは必ず拡大する。病院側も苦渋の選択である。


「本当に身体がツラい人だけが休めばいいのに」は、残念ながら病院や高齢者施設では通用しない。自分が感染していることに気づかない医療従事者(COVID-19も、無症候性感染(感染して、ウイルスをまき散らしているが、全く症状のない状態)が珍しくないことが分かっている)がクラスターの原因の大きなものである。慎重にならざるを得ないのである。


「沖縄が医療崩壊したと言われた6月21日の重症化病床は27床中5床の使用。これが医療逼迫の実態だ。」とあるが、これこそが今の「COVID-19による医療崩壊」の姿である。


COVID-19そのもので低酸素状態や多臓器不全を起こすことは今ではほとんどない。若い人であれば、Long COVIDは別として、1週間程度で急性期の症状は落ち着く。ただ、高齢者は、COVID-19に感染して、劇的に衰弱することが珍しくない。それまで元気、おしゃべりで元気に食事を取れていた人が、ぐったりとして水分も食事もとれなくなる。ご家族が「せめて水分だけでも取ってもらわないと」と思って、少量の水分を飲ませようとしても嚥下機能が低下して、むせてしまって水分も取れない。こういう人が入院患者さんのほとんどである。


体温は人によってはそれなりに高いこともあるが、37度後半くらいの体温の方も珍しくない。SpO2の低下も目立たない。なので、COVID-19としては「軽症」のクライテリアになる。しかし、入院して点滴などを行なわなければ、このままでは数日で死んでしまいそう、そういう人が入院するのである。重症者ベッドが埋まっていない、ということは「医療崩壊していない」ということを意味しているのではないのだ。著者はそこが分かっていないのだろう。


次に続きます。

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