第577話 ボンカレー

後期研修医を終え、恩師の診療所に勤務するようになった最初の夏。診療所は、研修病院と同様に、24時間365日を掲げていた。なので、盆休みはなく、日曜日は休診(時間外受診は行なっていた)だが、それ以外は暦通りの診察を行なっていた。


夏のお盆の時期は、多くの人が帰省するためか、暑いから出かけたくないからか、あるいは流行性疾患の少ない時期だからなのか、例年、受診する患者さんの数が減っていた。


外来がいつもに比べて静かだと、恩師は、


「この時期は毎年こんな感じだよ。ボンカレー(盆枯れー)だよ」


とおっしゃっていたことを覚えている。


今日の午前の外来、緊急で転送が必要な患者さんはおられたが、患者さんの数は多くなかった。確かにこんなに暑ければ、病院に来ることで熱中症になってしまう。


「今日は患者さんが少ないなぁ」と思ったときに、恩師が「ボンカレー」と繰り返しおっしゃっていたことを思い出した。


先生は診療所のオーナー経営者でもあったので、「ボンカレー」が来ると、職員の給料の支払いなどを考えて、胃が痛かっただろう、と思う今日の外来であった。

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