第565話 我が家のインフルエンザ狂騒曲

始まりは次男坊からだった。もう2週間ほど前か?夏季休暇に入った直後だった。「のどが痛い」と言い始め、翌日には39度台の発熱が出現。部活の同級生が前日から発熱していて、メッセージを送ったところ「インフルエンザ」だった、とのことだった。私の勤務する病院の発熱外来枠を特別に一枠取ってもらい、自宅に連絡。来院し、検査を受けて、やはり診断は「A型インフルエンザ」だった。イナビルと対症療法薬を処方して帰宅とした。我が家は家族仲が特別悪いわけではないこと、エアコンは電気代がかかるので、エアコン使用期間中はなるだけ一つの部屋で過ごすことが習慣となっており、どうしても、家庭内感染は避けられない。とりあえず次男坊は別室で過ごすようにしてもらった。


インフルエンザの予防投薬については、添付文書上、原則65歳以上の方で、呼吸器系などに基礎疾患を持つものが適応、とされているが、それに従うと、家族全員が「予防投薬」はできない。マスクと手洗いで戦うことになる。ただし、一応は「原則」という事になっているだけで、絶対に守らないといけない、というわけではない。少なくともこの仕事をしている私は、絶対に発症は阻止しなければならない。外来で接する患者さんも多く、入院の患者さんも担当していて、訪問診療も行なっているわけである。私が発症すれば、少なくとも入院患者さんと訪問診療の患者さんは、感染の可能性があれば予防投薬を行なわなければならなくなるし、発症すれば命にかかわることもある。それを考えると、原則からは外れるが、私自身には予防投薬が必要だと判断した。たぶん、病院の感染対策委員会に諮っても「予防投薬しなさい」の命が下ったと思っている。


悩ましいのは家族であった。長男は小さいころインフルエンザに罹患し、タミフルを服用した所、明らかにいつもの彼とは異なる状態となった。顔つきも変わり、攻撃的になったり、突然叫んだりするようになった。タミフル内服を中止すると、普段の彼に戻り、その後、インフルエンザに罹った時はリレンザで対応し、あの時のような異常行動は出たことがなかった。なので、長男にタミフルでの予防投薬は、夫婦そろって「不適切」と判断した。問題は妻であった。妻とも相談し、「私は予防投薬なしで。だって添付文書にそう書いているんでしょ」、という事で私だけが予防投薬、とすることとした(私の処方箋は、同僚の先生に書いてもらった)。薬局で薬をもらったときに、COVID-19+Flu用の抗原検査キットを2キット購入して帰った。


次男君は、イナビルで対応したが、2日ほど高熱で苦労したが、その後は速やかに解熱。ただ、療養期間に、「夏休み期間の特別講習」が学校で組まれており、それに参加する気満々だったのが、参加できなくなったのはとても痛かった。


次男坊が、そろそろ「復活」の時期になったころ、妻が「何となくのどが痛い」と言い始めた。その前日、長男君の三者懇談があり、その帰りに二人でお茶をして帰った、とのことだった。痛みを訴え始めたのは土曜日。診察枠が午前しかない。熱も出ていないので検査にはタイミングが早いと思い、少し待つこととした。一応午前診では、同僚の先生にお願いし、私の予防投薬を再処方してもらった(多分長くかかるだろうから)。


診察が終了した午後から、妻から「熱が出てきた」「熱が上がってきた」「39度を超えた」「子供たちのご飯よろしく」と間を少しおいて次々と連絡がやってきた。残念なことに、当院の「時間外外来」では薬は1日分しか処方できないルールとなっている。私は月曜日も休みなので、1日では足りない。とりあえず仕事を終え、私と子供たちの夕食を「ほっともっと」で調達。妻は経口補水液は嫌い(高いから嫌、という)なので、アクエリアスの2Lを買って帰った。


高熱を出している妻の抗原検査を行なうと予想通りインフルエンザA型陽性であった。抗ウイルス薬を使わなくても、1週間ほどで治癒する病気ではあるが、やはり高熱を出すと体力を消耗してしまう。という事で、私の手持ちの予防投薬用タミフルを半分妻に渡して飲んでもらう事とした(こらっ!)。次男は療養中。妻は高熱で動けず。長男は受験生で「勉強時間を取らせてほしい」と希望があり、週末は頑張って私が家事を切り盛りした。


月曜日の夕方頃には妻も微熱程度にまで解熱し、体調もそれなりによくなってきた。あぁ、良かった、と思っていると、今度は長男が、「父、喉痛い」と言い始めた。「今晩から熱が出たら、明朝検査しよう。明朝からの発熱なら、父が仕事から帰ってから検査しよう」と伝えた。そして火曜日に私は出勤。予防投薬用の薬の半分を妻に渡したので、妻に薬を返してもらわなければならない。長男もこの流れなら、おそらくA型インフルエンザだろう、と診断し、妻にはタミフルを、長男にはイナビルを処方した(一応、自宅でちゃんと診察をしているので、「無診察の投薬」ではないことは明記しておく)。


午前中から、「38度を超えた」「40度を超えた」と妻から連絡が来ていた。とにかく火曜日の仕事を終えて帰宅。長男はさすがにぐったりしていた。抗原検査を行なうと、予想通りA型インフルエンザだった。イナビルについている吸入用の添付文書を見ながら、私の監視下、長男にイナビルを吸入してもらった。イナビルの吸入を終えると、一応彼の治療はこれで終了。あとは熱が高いときはアセトアミノフェンを使うくらいである。長男君も、「夏季休暇中の特別講習(高3生なのでたくさんある)」に出席できなくなってしまった。受験生としてはつらいものである。


妻の体調も本調子ではないので、私が家事のサポートをしたりしながら、予防投薬をしつつ、仕事をしている。このまま、私が発症しなければいいが、とドキドキしながら過ごしている。

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