第562話 A Day in the Life

もしかしたら、以前書いた文章にも同じ題名をつけていたかもしれない、と思って振り返ってみたが、この表題をつけた駄文はなかった。ということで、今回はこの表題で行こうと思う。表題の通り、今回は特定のテーマではなく、全くの散文であることをご了承いただきたい。


読売新聞で「コボちゃん」を連載している植田 まさし先生は、コボちゃんの過去の作品すべてをデータベース化していて、ネタを思いついたら必ず過去の作品のネタとかぶっていないか確認してから描き始める、というインタビュー記事を数年前に読んだことを覚えている。今朝の朝刊を見ると、第14407回(R5.7/30)だった。それだけ過去の作品があると、ネタ被りをしていないかどうか、確認するだけで大変だと思う。氏はどうやって調べておられるのだろうか?データベースをどのように作っているのか、工夫が知りたいものである。


ここ最近世間を騒がせている中古車販売大手、BIG MOTOR社。7/26に国土交通省からの聞き取りがある、と報道されたら、7/25に記者会見を開き、社長は退任、現在起きている問題の張本人であるとされている、副社長である息子は会見には現れず、腹心の専務が新社長になる、という発表を行ない、結局国土交通省への聞き取りには新社長が向かった。


十年以上前だかアメリカで、トヨタ車の集団訴訟があり、就任早々の豊田 章男社長がアメリカの公聴会に呼ばれたことがあったと記憶しているが、仕事とはいえ、氏は逃げずに公聴会に出席し、精一杯の対応をしたことでアメリカでの氏の評価、トヨタという会社の評価が上がったように記憶している。


それを考えると、BIG MOTORの創業者(元社長)と、その息子氏の振る舞いはいかがなものか、と思われる。息子氏はMBA(経営学修士)を修めている、との話だが、彼はいったい何を学んできたのだろうか?と不思議でならない。「不正を働いて業績を上げる」「パワハラで従業員を締め上げる」ということを、MBAを取得するために学ぶのだろうか?


大塚家具も、創業者の娘さんである大塚 久美子氏が実権を握ってから、会社がひどく傾き、結局「大塚家具」を潰してしまった。氏も確か、素晴らしい学歴を修めていたと記憶している。大塚家具の創業者はその後、「匠 大塚」を立ち上げ、それなりの業績を上げていると聞いている。経営には「学問」以外の何かが大切なのだろう、と思わざるを得ない。渋沢 栄一氏の時代には、経営学という学問は未成立だっただろう。経営者として有名な松下幸之助氏、本田宗一郎氏、最近ではココイチの宗次徳二氏も、一流の経営者であるが、「経営学」を大学で学び、MBAを取得しているわけではなかった。もちろんBIG MOTORの創業者もそうである。ならば、MBAを取得することの意味はどこにあるのだろうか?


息子氏は、各店舗に到着した時に、車が入ってくると同時に職員全員が速やかに整列して、大声で「おはようございます」と挨拶しないと、機嫌を悪くしていたそうだ。接客中の職員なども、自分の仕事を一旦中断させてそれをさせていたそうだ。朝の挨拶は大切だが、一番大切なのはお客さんだろう。そこをはき違えている時点で「何を勉強してきたの?」である。有名なことわざに「実るほど 頭の下がる 稲穂かな」というものがあるが、知らなかったのだろうか、「そんなの関係ねぇ!」と思っていたのだろうか?


社員の皆さんに働いてもらって、その売り上げで自分の給料が出ていたのだろう。山本 五十六は「やって見せ、言って聞かせてさせてみて ほめてやらねば 人は動かじ」と言っていたではないか。恐怖政治でも人は動くが一時的である。結局船が沈み始めれば、どんどんとボロが出てくる。今、まさにそんな状態だろう。


BIG MOTOR社長一族の財産は資産管理会社が所有しているらしい。なので、氏のMBAの知識は、そういうところで発揮されたのかもしれないなぁ、と空想してみたりする次第である。



2023年4月にも書いたネタであるが、和田 秀樹氏の著作のことである。私の家ではテレビを基本的に見ないので、社会情勢は新聞、NHK総合ラジオとYahooニュースが私にとってのニュースソースとなっている。Yahooのホームページの記事の中に、”PRESIDENT On Line”に記載された、和田氏の文章(氏の著作の引用)が載っていることが多く、それを読むたびに「モヤモヤ」してしまう。氏は確かに医師(精神科医)ではあるが、いかにも「わかっています」然として文章を書いているが、「それ、ほんま?」という記載がちりばめられていて、中途半端に知識を持つ人たちでも丸め込まれてしまうようになっている。


あまり細かく言うと、「お前は揚げ足取りか??」と言われそうなので、少しだけ例を挙げる。


引用元:PRESIDENT On Line 2023.7-28 「それで長生きできるとは限らない…「酒をやめろ、たばこをやめろ、この薬飲め」と押し付けられた高齢者の末路」


<以下引用>

患者さんにこのような生活をさせたら長生きさせることができる、そう過信している医師が世の中にたくさんいます。本当はなんの保証もないのに、「この血圧の薬を飲んだら大丈夫」と患者さんに言うのです。


保証がないどころか、日本の医師が「血圧を下げたら長生きできますよ」と言っている根拠はアメリカでのデータであって、日本で大規模な比較調査をしているわけではありません。


血圧の薬を飲んだ群と飲まない群とで、5000人規模の比較調査をすれば、それが信頼できるデータかどうかある程度はわかりますが、本当のところは誰にもわからないのです。これは日本の医師が理屈のほうを完全に信じているからです。

<引用ここまで>


出だしからひどいものである。「そう過信している医師が世の中にたくさんいる」とのことだが、「本当か?」と言いたい。たった数年でも、臨床現場に立てば「医師の指示に従えば長生きできる」などという思い上がりは砕け散ってしまうと思っている。医学の世界に0%と100%はない、と私は考えている(悪性腫瘍の病理診断ではほぼ100%悪性、悪性の可能性はほぼ0%、というのはあるが、例外である)。健康的で元気に生活をしていた若年者が原因不明の心肺停止でERに運ばれ、心肺蘇生術の甲斐なく永眠される一方で、「こんにちは。体調はどうですか?少し布団を開けますね」と声をかけて布団をめくると、数匹の大きなGが飛び出してくるような環境で、食事もどんなものを食べているんだか、というような方が、数年間訪問診療をしていて、特段の変わりもなく過ごされている、ということを多くの臨床医(特にプライマリ・ケア医)は見ているので、「いのち」に対してそのような「傲慢」さを持つことに違和感を感じるだろう。


「血圧を下げたら長生きできる、という根拠はアメリカでのデータであって、日本での大規模な調査をしているわけではない」というのは大きな間違いである。日本の「高血圧ガイドライン」ではもちろん海外のデータもあるが、日本の臨床試験の結果も当然取り入れられている。特に九州大学が大規模に行っている「久山町研究」はその基本となる研究であり、「久山町研究」の名前を聞いたことがない医師は、申し訳ないが「きわめて不勉強」である。


福岡市に隣接する粕屋郡久山町という町があり、その町民2万人を対象とした前向きコホート研究が「久山町研究」である。九州大学医学部が総力を挙げて、現在も続いている研究である。


前向きコホート研究、とは、研究開始時点での被験者それぞれの各種データを採取し、被検者は特に制限なく、普通に生活してもらう(研究者側から、制限をかけることをしない、ということ)。定期的に、健診という形で被検者の状態確認を行ない、それを30年も続けていると、被検者が病気になったり、亡くなったりしてくる。もちろんこれも、どのような病気にかかったか、どのような病気で亡くなったかをデータとして回収する。


このようにして回収されたデータを、「血圧」であれば「血圧」の切り口で、「血糖値」なら「血糖値」の切り口で分類すると、明らかに関連があるとされる結果が得られることもあれば、あまり関係がないと判断される結果もある。


高血圧ガイドラインについてはそのリスク分類としては「久山町研究」など国内のコホート研究をベースに解析しており、対象者数は約6万7千人。その結果は中壮年層では血管リスク(心筋梗塞、脳卒中)については収縮期血圧120未満を1としたときに、血圧180を超えている人ではリスクが10倍近く上昇している一方で、後期高齢者は120未満を1としたときに、血圧180を超えている人のリスクは2倍に満たないことが示されている。


日本で5000人規模の研究があれば云々、と書いてあるが、高血圧ガイドラインでは上記のように日本人約6万7千人を対象とした研究をベースに作成されているわけである。


出だしだけで言葉は悪いが「でたらめ」と言っても過言ではなかろう。


<以下引用>

ところが、理屈どおりにいかないのは、わたしが勤めていた高齢者専門の総合病院、浴風会病院に付設する老人ホームの入居者を対象にした調査データが示していました。たばこを吸っている人と吸っていない人の生存曲線を見てみると、まったく差がありません。


<引用ここまで>


これも、実にいい加減な文章である。まず「老人ホーム」の入所者を研究対象に選んでいる時点でおかしいのである。一時期、「東大生の家庭の平均年収は1000万円以上」ということが世間を騒がせたが、この結果から、「大学生の家庭の平均年収は1000万円以上」という推論をする人はいないだろう。理由は簡単で、「東大生」は明らかに「選ばれた人」だからである。


「老人ホーム」に入所できるのは自立度が高く、ある程度自分のことは自分でできる人である。「寝たきり」の人などは「老人ホーム」には入れない。なので、「老人ホーム」に入所できる、という時点で、その年代の中では「健康度」の高い人たちが選別されているわけである。


喫煙者みんなが肺がんになるわけでもなく、「タバコ病」とも呼ばれる「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」の発症率は喫煙者の10%とされている。


なので、予後の短い方で、入所の時点で高い健康状態を保っている方なので、入所後にタバコを吸い続けようが、入所前からタバコを吸って無かろうが、有意差が出る前に寿命が来てしまう」というわけである。


一例をあげたが、「高名な(それが医療のこととは限らない)医師」が書いた文章であれば、このようなトリックに気づくことは相当難しいことである。


和田氏の論調の根本である「高齢者に『健康のため』といって過度に生活に制限をかけるのはよろしくない」という意見には私も大いに賛成しているが、そのロジックに、このようなごまかしがちりばめられているので、ついつい読んでしまっては「モヤモヤ」してしまう、ということを繰り返している今日この頃である。



世間ではCOVID-19 9波が来ているのでは、という話も聞こえてくる。実際に沖縄や北海道では、地域医療が破綻、あるいは破綻寸前の状態になっている、というニュースも見かけるが、ネットニュースでは、「5類になったのに医療がパンクするのはおかしい」などという論調が強く見られ、いや~な気持ちになる。一般人は現場を知らないから、平気で、しかも断定的にそういうことを書くのだろう。医療者側としては、患者さんが激増すれば、当然重症者も激増するので、医療が破綻するのは当然だ、と思っているので、その認識の違いにガックリとしてしまう。


我が家にも、COVID-19とA型インフルエンザの波が襲ってきた。インフルエンザについては、本来私は適応ではないが、予防投薬を行なっている。私が倒れれば、職場にひどい迷惑をかけてしまうからである。冷や冷やしながら、そして寝込んでいる妻の代わりに頑張って家事をしながら過ごしているこの週末である。

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