第557話 『成長産業』への「労働移動」?「成長産業」ってあるかい?

出勤中のカーラジオ。いつもと同じNHK 総合を聞いていた。ちょうど私の移動時間帯に「マイ!Biz」というコーナーがあり、ビジネス関係の様々な話題を識者から解説してもらう、というコーナーである。


今日のテーマは「“労働移動”の有効性を問う」とのことで、法政大学教授の水野 和夫氏が話をされていた。


先月閣議決定された「骨太の方針」、その中で「労働市場改革」として、「『成長産業』への労働移動を促すことが、構造的な賃上げにつながる」との記載があるそうだが、氏はこの記載に対しても疑問を抱えていて、「では、今の日本に『成長産業』は存在するのか」と問いかけている。いくら労働市場の流動性を増やしたところで、『成長産業』がないのであれば、「賃上げ」にはおぼつかないだろう、というのが氏の主張である。それはまさしくその通りだと感じた。


世界規模で考えて、「日本の産業」が優位性を保ち続けているもの、って何だろう?おそらく超高度な精密機器くらいしかないだろう。しかも、その技術を支えている技術者が高齢で、バブルの時期の就職抑制のため、中継ぎ人材がいないため、今の技術を支えている人が引退してしまえば、その優位性も失われるだろう。


国内の産業に目を向けると、「医療、介護の分野」「農林水産の分野」は「成長」の余地はありそうだ。しかし、「医療・介護」の分野は価格を自由に決められない、という点で、「農林水産」の分野は株式会社の参入が禁じられているので、やはり「急速に伸びてくる」とは言い難い。


水野氏が、この30年間で日本の「成長産業」を作れず、生産性を低下させ、日本を「貧しくした」のは、「日本政府」と「経営者」である、と断罪したことは気持ちが良かった。


氏は、「退職金への課税強化」など、一つの会社にいるメリットを減らして、労働者の流動性を増やしても、結局「成長産業」がなければ、現行の制度では「賃上げ」はおぼつかないわけで、施策としては不適切だろう、という意見であった。私自身もその意見には賛成である。企業サイドとして、「給料を上げて、人材にとどまってもらう、あるいは人材を集める」というマインドがなければ、雇用が流動化すればするほど、「普通の」労働者にとっては困るだけである。


今日のニュースでは、税制調査会で、「課税対象として通勤手当や退職金制度、各種控除の廃止、そして、『NISA』の譲渡益に対しても課税対象としてはどうか」との意見が出たそうである。税収が過去最高となっても、「まだ取るか?」と思ってしまう。しかも、NISAは「税金を掛けない」ための制度である。NISAから税金を取るのなら、全く意味をなさない。


少しラジオの内容からずれてしまったことも書いてしまったが、「骨太の方針」、これで一般の人々の生活が豊かになるとは考えづらいと思う。企業の人事採用を「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に変えようが何をしようが、雇用側が、正当な人件費を支払わなければ結局「雇われ人」は貧しいままなのだろう。起業しようとしても、何かと問題が多い。つらい世の中だ、と思いながら車を走らせていた。

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