第545話 アンダーパスよりオーバーパス

この2週間ほど、あちこちで大雨の被害が出ている。九州は大変だ。医学部時代の学友の多くが九州にいるので、いろいろ心配になる。


今日、仕事を終えて帰宅するときに、一気に大雨が降ってきた。高校時代の英文法の例文、一番最初のものが”It never rains but pours.”(雨が降れば必ずどしゃ降り)だったことを覚えている。30年以上前の些細なことを、今でもよく覚えているものだ(そして大事なことは忘れている(泣))。息子の教科書には”It rains cats and dogs.”と書いてあった。そのような激しい雨が降っていた。


「傘」は素晴らしい発明品で、数百年来、雨の日に使われているが、逆に「傘」以上に雨の日に有効な道具がない、というのも事実である。しかし、「傘」ではどうしても足元は濡れるし、風が吹けば桶屋が儲かる、ではなく、風が吹けば横殴りの雨に打たれ、時には傘そのものが壊れてしまう。「合羽」を着て、長靴を履いて、というのも「歩いて移動する」ときには、もう一つパッとしない。


ただ、バイクに乗っているときは、フルフェイスのヘルメットで、シールドの表は撥水剤を塗布して、裏側には曇り止めを塗布し、合羽を着てゴム長靴を履く、というのが一番快適だった(革製の手袋をしていたので、手は濡れていたが、それはあまり気にならなかった)。ブーツカバーや、バイク用レインブーツ(結構高いやつ)を使ったりしたが、あのオーソドックスで安価な「ゴム長」が、一番耐水性に優れていた。雨の中、高速道路を1時間走ってもびくともしなかった。


閑話休題。個人的には、「傘」よりも効率的に雨に濡れないツールができてくれたら、と思いつつ、歩くときは傘をさしている。豪雨の時は、屋根のないところで車に乗るのも難しい。私の使っている傘は少し大きめのものなので、運転席のドアを開け、シートに座って傘を畳む、ということが難しい。畳めたとしても、傘を自分の体の上を横切るようにして、運転の邪魔にならない場所に置くため、結局どしゃ降りの時は身体が濡れてしまう。


大きめの傘なので、後席の足元に置くようにしているので、後席のスライドドアを開け、カバンを置き、気合を入れて傘をたたみ、足元に投げ入れ、スライドドアを閉めると同時に運転席のドアを開け飛び込むようにしている。その間、7,8秒程度だと思うのだが、今日の雨はそれだけでもかなり濡れてしまった。車の屋根を雨粒が強く叩きつける音が車内に響いていた。フロントガラスには屋根からの水がどんどんと流れていった。それでも自分自身がこれ以上濡れないだけでも、「車があること」はありがたかった。


そんなわけで、結構な豪雨の中を帰宅する羽目になった。見通しが悪いので、ヘッドライトは点けて運転した。フロントガラスにはワイパーがあるので良いのだが、ドアミラーもフロントウインドウも雨粒がたくさんついて、側方の確認、後方の確認はとてもしにくかった。


私が車に乗った後、雨はさらに強くなった。いつもはワイパーは「間欠的に作動」を選択しているのだが、今日は「連続的に作動」とした。普通の雨なら、目の前のワイパーがうっとうしく感じるのだが、今日は気にならないほど、雨は強かった。降り始めてから短時間だったのだが、道路の水たまりがどんどん大きくなっていった。私の通勤路には川が2本あり、そのうちの1本は堤防沿いを走るので、増水の程度が分かるのだが、「降り始めて間がない」ので、川の増水はそれほどでもなかったが、周囲の土地に張り巡らされている水路の水を配水する排水孔(堤防からは死角で見えない)からは水が噴き出すように川に排水されているのが分かった。川がある程度増水してしまうと、その様子は分からなくなるので、珍しいものを見ることができた。


それはそれとして、それだけ一気に雨が降っていたわけである。道路の水たまりは、もう「水たまり」というには大きすぎるほどになっていた。歩道を歩いている人に水を掛けないように、徐行していると、後ろの車があおってくるが、煽ってこられても困るわけである。広くもない道で、歩道も細いし段差も小さい。道路は「デカい水たまり」と「冠水」の間であった。


私の通勤路には一か所、鉄道の下をくぐる「アンダーパス」がある。アンダーパスは結構深く掘られていて、背の高いトラックでも十分通れるほどの高さ(深さ?)がある。交通量の多いアンダーパスなので、それ相応の排水量のポンプが装備されているのだろうとは思っているが、10分ほど車で走るだけで、「水たまり」が「冠水」に近づくほどの雨量である。アンダーパスの少し手前の交差点でうまい具合に信号に引っかかり、少し考えた。もしアンダーパスが冠水していたら、悲惨である。信号を直進すれば、アンダーパスをくぐって自宅に最短のコースである。博打を打って、直進とするか、アンダーパスを回避するか、どうするべきだろうか?


2つ前の信号でアンダーパスのことを考えていれば、その信号を右折ではなく左折すれば、鉄道が高架になっているので、アンダーパスをくぐることはなかった。その時点で考えなかった私が甘かったのだが、今は、2つ前の交差点の信号待ちの時の1.5倍ほどの降り方である。


この信号を右折すれば、混雑するが、鉄道をオーバーパスする跨線橋に向かうことができる。信号が変わる2秒前に決めた。「博打を打つのはやめよう。安全に帰ろう」と。ということで、方向指示器を右に出し、右折した。私をあおっていた軽の1boxはスピードを上げて、直進していった。


そんなわけで遠回りして、跨線橋にやってきた。跨線橋はいつも以上に渋滞していて、雨水が滝のように橋の上から流れて来ていた。その様子を見て、「やはりアンダーパスを選択しなくてよかった」と思った。こんな勢いで水が流れ込んでいたら、やはりアンダーパスは怖い。アンダーパスもそれなりに渋滞するので、アンダーパスの底で渋滞で止まることになれば生きた心地がしないだろう。


YouTubeにアップされている動画で、冠水している道路に自動車がスピードを出して進入し、フロントに大きな水しぶきをあげて、そのあと車が動かなくなる、というものが多いように思っている。エンジンの構造上、吸気系に大量の水が入ってしまえば、それでエンジンは「全損」である。一般的に、30cmを超えるような冠水には入ってはいけない、とされているが、でっかい水しぶきをあげるような走り方では、それ以下でも車はダメになるだろう。もし先ほどの1box、アンダーパスが冠水していて、あのスピードで突っ込んでいたら、アウトだろうなぁ、と思いながら、オーバーパスを超えて帰宅した。


日ごろの行いのせいかどうかわからないが、自宅そばまで来ると、「豪雨」→「小雨」に雨量が減ってくれた。おかげで、帰宅した時はあまりぬれずに、カバンと濡れた傘を車から出して、自宅に入ることができた。


トラブルなく帰宅できてよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る