第544話 死因は何だろう?何が起きたのだろう?

病院名まで報道されているので、そのまま記載することにする。


神戸徳洲会病院 循環器内科で2023年1月以降、カテーテル手技を行なった患者さんのうち6名が死亡した、とのことで神戸市保健所が調査に入った、とのニュースが報道された。病院側も、現在カテーテル手技を中止している、とのことである。


保健所へは内部告発があったそうである。状況は分からないが、半年で6名の死亡、というのは多いと思う。


後期研修医時代、循環器内科に4か月ローテートしたが、深夜の当直帯で、私がER当直でないときは指導医が一人でPCI(Percutaneus Coronary Intervention:経皮的冠動脈治療)をされ、日勤帯はほぼ全例、私は指導医と一緒にカテ室に入り、最終的にはCAG(Coronary Angiography:冠動脈造影)と、一部PCIは指導医の監視下、指導の下でさせてもらっていたが、カテーテル関係で、患者さんの命にかかわるような出来事は経験したことがない。


研修を受けた病院では、私が在籍した時はしっかりした心臓血管外科もあり、CAGの時点でCABG(Coronary Artery Bypass Graft:冠動脈バイパス術)の適応と判断されれば、速やかに心臓血管外科に転科してもらっており、その点でも、トラブルは経験したことがなかった。(心臓血管外科の年間手術数は100例未満ではあったが、術後1か月以内の「手術関連死」は数年間「ゼロ件」だった)。


私が循環器内科研修を終えた直後に、PCI中にVf(Ventricular Fibliration:心室細動。心臓から血液が拍出されないため、「心停止」と扱われる)となった症例をたまたま(私がERから循環器内科に紹介し、手が空いていたため、カテ室を覗いていた)見かけたが、これも、「カテーテル手技」の問題ではなく、偶発的に起きたことである。この方はすぐにPCPS(人工心肺、V-A ECMO)を挿入され、私もERから呼び出されたため、転機については不明であるが、少なくとも、「手技」には問題なかったと認識している。


もちろん、PCIに関連する致死的な合併症は存在する。当時のPCIは、狭窄部位をバルンで拡張し、ステント(金網)を拡張部位に内張りし、再狭窄を予防する、というものであった。バルン拡張時に冠動脈の解離(血管内皮が裂ける)はしばしば見られたが、それについてはステントを挿入することで対応しておられた。指導医が上手だったのだろうと思っているが、手技に際して、深刻なトラブルを経験することは全くなかったことを覚えている。


なので、「半年で6例の死亡症例」というのが、全く想像がつかないのである。今は「冠動脈CT」が一般化しているので、狭心症を疑う場合には、まず「冠動脈CT」を行なうが、私が研修を受けたころはまだ実用化されていなかった。なので循環器内科医は「冠動脈疾患」の疑いがあれば、積極的に紹介してもらい、CAGを行なってPCIの適応があるかどうかを確認していた。紹介が遅れて、心筋壊死を起こすより、さっさと心カテをして、冠動脈にトラブルがないことを確認する方がよい、と循環器内科医は考えている、ということを理解した。循環器内科ローテート以降は、そんなわけで循環器内科へのコンサルトの閾値はぐっと低くなった。


以前にも書いたが、保健所への内部告発は「正義感のある身内」からのものであったのだろうと思われる。ただ、おそらくスタッフ側が、「これはとんでもない状態だ」と考えての告発であることは疑う余地のないことだろう。よほどスタッフが「これはおかしいだろう」と感じることを繰り返していなければ、そういった告発は行われないだろう。


亡くなられた方には心からご冥福をお祈り申し上げる。保健所の監査が入り、どのような治療が行われていたのか、その適応の判断や、術中の手技、術前術後の管理などがどうなっていたのか、可能であれば明確にしてほしいと思っている。

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