第538話 うぉ~!まじか~!
病棟に入院中の担当患者さん。状態が安定している人もいれば、終末期を迎えている人、急性期の治療中の人など、バラエティに富んでいる。基本的に、当院に入院される方は「急変時は蘇生処置を行なわない」という事で入院していただいている。
理由は2つあって、一つは、「蘇生用の薬剤、蘇生後に用いるべき機器がない」という事である。一応、人工呼吸器は1台あるが、後は心電図、SpO2モニタがある程度で、観血的な血圧測定(A-Line)もできない状態であり、夜間については検査能力なども極端に落ちるため、急変時の心肺蘇生などは難しいことが一つ。
もう一つは、入院される方のほとんどが平均寿命を越えておられ、入院中の患者さんの最頻値は90代半ば程度である。そのような方が病態悪化し、心肺停止の状態となった時に、心肺蘇生を行なうことが果たして適切かどうか、というところである。当然「入院の継続」という事でお見えになるので、自宅退院できない大きな問題点、健康上の複数の問題点を抱えている方がほとんどすべてである。そう考えると、「心肺停止、あるいは死戦期に蘇生処置を行なう」ことが、患者さんの幸せにつながるのか、と問われると、客観的な視点からは「厳しかろう」と思ってしまう。そんなわけで「急変時は蘇生処置を行なわない」という事としている。
だからと言って、状態が急激に悪くなっている方を「急変時は蘇生処置をしない」という理由で、どの患者さんの、どんな状態に対しても治療の手を緩める、というのも正しくはないと思っている。必要な場合には「積極的に」治療介入を行ない、急性期病院への転院なども行なうべきだ、と考えている。
今朝の朝回診、病棟を回っていると、状態が安定し、次の病院への転院が決まっている人が、いつもの場所にいなかった。「あれぇ?」と思っていると、別の部屋に移動していた。その部屋はその方一人だった。
いつも通り、「調子はどうですか」と声を掛けようとして驚いた。昨日の夕方、私が仕事を終えて帰宅する時点では、酸素もつけず、穏やかに過ごしていた方だったのだが、酸素をつけ、顔色は極めて悪く、冷や汗をかいて、頻呼吸となっていた。心音、呼吸音には異常なし。ただ、明らかに前日の状態とは異なる。冷汗もかいており、まずいことが起きているのは確かである。
Ns.ステーションに戻り、カルテを確認すると、状態が悪化したのは昨日深夜帯~本日未明からである。糖尿病の併存症があり、状態悪化時にNs.が血糖を測定し、291mg/dlと記録が残っていた。心電図モニターがつけられているが、心電図波形を見ると、STが低下している。心筋梗塞では、虚血を起こしている部位の誘導からは障害電流が検知され、STが上昇、虚血を起こしていない部位の誘導では、障害電流の流れでSTは低下する。おそらく患者さんは急性心筋梗塞を起こしているのではないか、と考えた。大急ぎで指示を出し、「各部署が動き始めたら、至急で検査を行なってください」と当直帯の看護師さんに伝えた。
そろそろ各検査部門が動き始めるころ(今、8:25)である。結果を確認し、必要があれば急性期病院に転院を考えなければならない。今日は午前の外来を担当しているので、こまめに病棟に足を運ぶことはできない。朝一番からヒヤヒヤしている。
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