第526話 Old Brown Shoe

私がビートルズの大ファンなのは、以前にも書いたことがあるが、今回はこの曲について書かせてほしい。


ジョージ・ハリスンの作詞作曲で、オリジナルアルバムには収録されておらず、Past Masters Vol.2に収録されている。後期ビートルズの作品で、ジョージの曲としては珍しく、ピアノが主体の曲である。


独特のノリと、雰囲気を持っている曲で、そういう点では際立っているが、「誰もを感動させる」という曲ではなく、いわゆる「通好み」の曲である。


と、私も思っていた。昨年の夏に、有料のディズニーチャネルで放映された、”Get Back session”を再編集した”Get Back”を見るまでは。


ビートルズに一番最後に加入したのは、リンゴ・スターで、彼も残りの3人と顔見知りで、仲良しではあったけど、もともとは別のバンドのドラマーだった。ビートルズの残り3人が彼を、「ビートルズ」としてのデビュー直前に「引き抜いた」というのが正しい。ビートルズ旋風が巻き起こっているときの「リンゴ」へのインタビューで、「ビートルズと、もう一つのバンドから声がかかっていた。ビートルズは週に25ポンド、もう一つのバンドは週に20ポンドの提案だった。なのでビートルズに決めた」と答えている。


残りのジョン、ポール、ジョージは、ただのローカルバンドだったビートルズの時代からの仲間であるが、ビートルズの年齢順では、リンゴ、ジョン、ポール、ジョージの順で年齢が高く、ポールはジョンの3つ下、ジョージはポールの1つ下で、一番若いメンバーだった。


若すぎて、ハンブルグへの巡業では就労ビザが下りず、不法就労がばれて追い返されたり、などの出来事があったが、ビートルズが「ビートルズ」となっていく中で、この3人がコア・メンバーだった。


おそらく、デビュー前、そしてデビュー直後辺りは、ジョージが一番音楽的センスがあったのだろう。4人の担当楽器を見ると、ジョージがリードギターを弾いている。リードギターを弾くのは、普通はそのメンバーの中で、一番ギターが上手な人が担当するだろう。ポールがベースなのは、その前のベース、スチュワート・サトクリフが脱退した時に、メンバーで話し合って決めた、ということになっている。スチュがベースを弾いていたころはポールもギターを弾いていたので、ある意味ポールは、「当時は仕方なく」ベースを弾いていたのかもしれない。


ジョン・レノンはカリスマで、センスの塊だったが、音楽理論云々は全く知らず、そのセンスのままに曲を作るので、自分が作った曲なのに、20分ほど時間をおいてもう一度引こうとすると、同じようには弾けなかったらしい。最初の演奏をしっかり覚えて再現できたのはジョージだったそうだ。今回の“Get Back”でも、ジョンが「あれぇ?」となるとジョージが「こうだろう」と言って弾いているシーンが幾度も出ていた。


書き出すときりがないので、簡単にまとめると、ビートルズのデビュー前後は、ジョージハリスンは、メンバーで一番若いが、バンドの音楽を組み立てていくうえで欠かせない存在だった。ビートルズがデビュー後、真っ先に爆発したのは、リーダーでもあるジョンレノンの才能で、あれよあれよと「世界のビートルズ」になっていった。音楽理論はプロデューサーのジョージ・マーティンがプロだったので、そのセンスを彼の知識と合わせて、どんどん素晴らしいものを作っていった。中期ビートルズになると、ジョージ・マーティンに質問をたくさんして、しっかりと理論的背景を身に付けていった、もともと器用で頭のいいポール・マッカートニーの才能が爆発し、さらにビートルズの音楽の世界が広がっていった。ジョージ自身も、ビートルズのメンバーとしてどんどん成長していったのだが、いかんせん、二人の才能の爆発が激しすぎたこと、この二人が“Lennon-McCartney”として、作品をすべて「二人の共作」としていたこと、ポールがまじめすぎて、一つ年下のジョージを「二人が知り合ったとき(ポール14歳、ジョージ13歳)」の関係のままで彼の演奏に口を出していたため、ジョージの「ビートルズ」内での居心地がどんどん悪くなっていった。


そんなわけで、3部に分けて発表された“Get Back”の第一部では、ジョージが「もうバンドをやめる」と言ってスタジオを出ていったところで終わっている。その前にも、ジョージがポールに「じゃぁ、エリック・クラプトンを連れてくりゃいいじゃん!」と食って掛かり、ジョンが「俺たちに必要なのはジョージ・ハリスンだ」と助け船を出すようなことも映像に残っている。


話は随分脱線したが、もう一度4人で仕事をしよう、となって曲作りをしていたころ、ある日、ジョージが「昨日書いた曲なんだけど、結構いい出来で、昨日は眠れなかったよ」と言いながらピアノを弾いて歌っていた曲が、この“Old Brown Shoe”である。ジョージが楽しそうにノリノリで歌っているのを、ピアノのそばでリンゴが聴いていて、しばらくしてスタジオに来たポールも曲に聞き入り、そして彼がドラムセットに入ってドラムをたたき始め、ミニセッションが始まる、というシーンが撮れていた。ジョージは楽しそうに演奏し、複雑なコードについてはキーボード奏者のビリー・プレストンに「このコードはどうなるの?」と聞いたりして、「ピアノ、難しいけどギターで作曲するのとは全然違うアプローチで作曲できるね。ピアノもしっかり勉強しなきゃ」という彼のセリフも残っている。


あの楽しそうなミニセッションを見て、もう一度、完成品の“Old Brown Shoe”を聞くと、ジョージの最初の曲のイメージを大切にしながら、アレンジが加えられているのが良く分かる。「ジョージの曲ではポールのベースが張り切る」と言われているが、その通り、ベースは思い切り頑張っている。コーラスをつけているのもポールだろう。ビートルズの活動の中で亀裂が入り、ジョージが亡くなる直前までジョージが拒絶していたポールとの関係、それであっても、ポールはジョージのことを弟のように思っていたのだなぁ、ということがわかるアレンジであった(ジョージは、その「弟扱い」が嫌だ、対等に見てほしい、という気持ちがあったのだが)。


つい最近のポールのインタビューでも、ジョージのことはやはり「弟のような存在」として扱っていて、「儒教」の「長幼の序」が身に沁みついている私たち日本人にとっては理解しづらいのかもしれないが、ジョージはポールの「いつまでも弟分扱いする」ところが嫌だったのだろうと思う。


まぁ、それはそれとして、ずいぶん長く書いてしまったが、まとめてしまえば、ビートルズの曲“Old Brown Shoe”、映像“Get Back”を見てからもう一度曲を聴き直すと、考えが変わったよ、というただそれだけの文章である。


乱文乱筆失礼しました。

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