第523話 「上意下達」の組織だからこそ、トップの力量が問われると思う。

「個人としての尊厳」を「守る」というのがどういうことか、考えさせられる報道である。ソースは毎日新聞。いつものごとくYahooニュースより。


<以下引用>

 甲賀広域行政組合消防本部(滋賀県甲賀市)が新型コロナウイルスのワクチン接種をしなかった職員を「接種拒否者」として廊下脇で勤務させ、扱いに耐えかねた職員が退職した問題で、他に接種を受けない意向を示した職員3人も退職していたことが判明した。ワクチンを接種しなかった全員が退職する異例の事態で、3人は毎日新聞の取材に接種を巡る本部の対応には不満があったと証言した。


2021年5月、副反応への不安からワクチン接種を辞退した警防課の30代の職員に対し、全職員との接触を制限。更に消防長名で「ワクチン接種拒否者への業務区別」と題する内部文書を出し、職員の執務場所を廊下脇の協議スペースとしていることなどを全職員に周知した。職員は4カ月後に退職した。


関係者や本部によると、22年8~9月の4回目接種で、通信指令課の再任用の60代男性職員▽予防課の30代男性職員▽湖南中央消防署の20代男性職員――が副反応への懸念から接種しない意向を伝えた。その後、本部の対応への不満などから全員が退職したという。


通信指令課の職員は、幹部らとワクチン接種について複数回面談した後、同9月末に退職した。職員によると、「打たないのなら、(消防を)辞めないといけないのか」と聞くと、「(職場に)いるのなら、打ってください」などと言われたという。この職員は「接種を受けない職員は辞めざるを得ない状況だった」と訴える。


予防課の職員は「警防課の職員が辞めて1年たっても、接種を理不尽に強いる組織の体質に失望した」と明かす。幹部からは「消防長は今までのやり方を通したいと思っている」「打たないなら、毎日ゴーグルをするなど他の職員とは違う感染対策を考えてくれ。ワクチンを打てば事は済む」などと言われたという。職員はこの面談の直後に体調を崩して適応障害と診断され、同9月末に退職した。


本部は22年12月、5回目接種の通知文書で、接種しない職員について「担当課及び所属長から接種するまで継続して必要性を説明し、ゴーグルの着用を義務づける」などと全職員に周知した。4回目以降の接種を受けなかった湖南中央消防署の職員は1人だけゴーグルの着用を求められ、23年3月末に退職した。

<引用ここまで>


COVID-19が流行する前は、インフルエンザに対して、よく似たような対応をする企業(に勤務する患者さん)をよく見ていた記憶がある。この件については、消防本部が「救急隊」という「医療」の世界で極めて重要な役割を担っている組織を管轄していることを考えると、きわめて深刻な問題を提示していると考えられる。問題点としては、


① 対応に対して、その医学的根拠が全くないこと

② 提示された対応が明らかに「懲罰的」であり、「理不尽なパワーハラスメント」であること


の2点に集約されるであろう。本来不適切なことであるが、医学的知識に乏しい一般企業でも同様のことは起こりうる可能性が高い。しかしながらそれは「無知」を改善(例えば、産業医からの「(安全)衛生委員会」での啓蒙活動など)できる可能性がある(かもしれない)。しかしながら、救急隊を擁する「消防本部」であれば、「救急救命士」など、ある程度の医学的知識を有する組織であるはずであろう。そのような組織が②のような対応を取り、所属している隊員たちから、①の指摘がなかった(あるいはできなかった)というところが深刻な問題であろうと思われる。


もちろん「消防システム」も、軍隊や警察と同様、活動する現場が緊迫した命にかかわる現場であるため、その組織が厳しい「上意下達」のものとなるのは仕方がないことであるが、であるからこそ、その組織の長は、その決定がいろいろな視点から見て「妥当」であると判断すべき責務があるはずである。その気になれば、高度な医療を提供している医療機関、医師からの助言も得やすいはずであろう。


おそらくこの消防組織は「市」に属する組織だと思われるので、「市」として、長の責任を問うべきであろう。組織として、「上意下達」であるべき組織である以上、そこは避けられないところであろう。と同時に、今後も新たな感染症が次々に現れるであろうから、その際の様々な意思決定、あるいは規則の策定の際に「科学的視点」を軽んずることがないように期待したい次第である。


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