第509話 AIを活用、といわれてもなぁ…。

昨日の読売新聞夕刊には、「AIに手塚治虫氏の名著『ブラック・ジャック』全話を学習させ、新しい『ブラック・ジャック』を学習させたAIで作成し、連載をさせる」という記事が載っていた。


Yahooニュースでは、30年ほど前に行われた「ビートルズ・アンソロジー」企画で、オノヨーコからポールマッカートニーに渡された3曲のうちの1曲”Now and Then”をAIで音質をクリアにし、アレンジを加えて”The BEATLES”のクレジットで発表する、という記事が載っていた。


生成系AI、特にChatGPTが話題になってから半年ほどだが、その間にも生成系AIは長足の進歩を遂げている。YouTubeを見ていても、Johnのソロ曲をAIでビートルズ風にアレンジした曲が、動画としてアップされている。


彼が早世したため実現しなかったが、壮大なオーケストレーションを加えて、マリッジソングとして仕上げたかったJohnの曲”Grow Old with Me”(「一緒に年を取っていこう」という意味。結婚式での曲、という事を考えると、タイトルだけで涙が出そうになる)、AIでビートルズ風にアレンジしたものがアップされていた。実際聞いてみると、何となくビートルズ風のような、そうでないような、微妙な感じであったが。


“Grow Old with Me”はジョンが亡くなった後に発売された“Milk and Honey”にアレンジなしで収録されているほか、10年ほど前のアルバム“WONSAPONATIME” (Once Upon A Time:「むかしむかし」をあえてスペルミスしている)に、ビートルズの名プロデューサーであったジョージ・マーティンが彼の楽団を使ってオーケストレーションを加えたものが収録されてあった。個人的にはこちらの方が、Johnの意図を組んでいるのかなぁと思ったりする。


AIはしょせん「機械学習」なので、「ブラック・ジャック」全話を学習させても、その根底にある「命とは何か?生と死とは何か?そこにかかわる医者はどのような存在たるべきか?」という手塚治虫氏の思い、問いかけまでは汲み取れないだろう。そこからどのような話が作られるのだろうか?AIによって作られたブラック・ジャックは、AIの作品であって、「手塚治虫氏」の作品ではない。


Johnの”Now and Then”については、AIは単なる編集ツールとなるので、また話は変わるのだろうが、Johnの曲に、今生きているPaulとRingoが加わったとしても、Georgeのギターはどうするのだろうか?これもAIでGeorgeらしいフレーズを作るのだろうか、と考えるとなんだか悲しい。


ビートルズ・アンソロジープロジェクトはJohnの曲に3人が加わって作ったものなので、3人がThe Beatlesのクレジットに納得していたのなら、ビートルズの曲とするのに異論はなかった。また、昨年公開されたGet Back sessionや、White Album、Abbey Roadに収録されている曲のように、メンバー全員が参加していなくても、The Beatlesの名義で発表している曲があるのも知っている。知ってはいるが、わざわざ新しく出す曲なのに、Georgeの要素が全くなしで“The BEATLES”のクレジットで発表するのはいかがなものだろうか、という気がしなくもない。


極めて残念なことだが、PaulとRingoの名前で発表し、Featuring John Lennonとせざるを得ないのではないか?やはり4人がそろって“The BEATLES”だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る