第500話 我が家のCOVID-19騒動その2

6/8にCOVID-19を発症した次男君。別室隔離を継続中であり、一時高熱は出たものの、その後は解熱。元気になってきている。一応明日(6/13)までは「外出制限期間」なので、別室での隔離生活をしてもらうつもりだが、今の調子なら、6/14には隔離解除、体調に問題が無ければ登校してもらうことにしようと考えている。


どうしても人間、心弱いところがあり、「休みの間も勉強しよう」と思ったりしていても、ついついYouTubeを見てしまったりする。次男君もその体で、一応英単語の本やら古文単語の本を部屋に持ち込んでもらっているのだが、それには手を付けず、ひたすら「小説家になろう」サイトで、ラノベを読み続けている。妻が次男君に腹を立てるのは、そのように「だらだらと」流されてしまう態度なのだが、次男君はそれに気づかない。なにも、常に勉強せよと言っているわけではなく、「学校が始まったら、また英単語や古文単語のテストがあるから、せめてそれくらいは用意しておけ」と思っているだけなのだが、うまくいかない。


YouTubeで、「ラランド」の二人が挙げている「お母さんヒス構文」そのまんまのやり取りがあったが、さすがに割り込めない。下手にこの動画を妻に勧めるのも危険だと思い、妻以外の3人は固まってしまう。妻の心配はもっともなのだが、伝え方って難しいなぁ、と思ったりする(次男君も絶賛反抗期(「黙って反抗」状態中)。


まぁ、そんなわけで、次男君は元気になってきており、予定通りに外出制限は解除できそうだが、今度は6/10頃から長男君が体調不良を訴え始めた。


「のどが痛いから、父、のど診察してほしい」と言って、舌圧子代わりのティースプーンと懐中電灯を持ってくる長男君。「あ~ん」と診察するが、特に異常所見はない。


咽頭所見の取り方、と言えば思い出すことがある。医学生の使うような本、あるいは初期研修医が使うような本で、「間欠、かつ適切な咽頭所見の取り方」(要は、のどが腫れているか、いないか)を取り上げている本は見当たらなかった。私自身もおそらく延べ1万人以上の診察を行なって、ようやく、「のどが腫れているか、いないか」を「自信を持って」言えるようになった。


研修医を終え、修業した病院に非常勤として週に1回お邪魔していたころ、ちょうど訪問診療に出る前の時間に、内科カンファレンスを行なっていた。私の修業した病院グループの草創期(まだ病院が4つくらいだったころ)の統括内科部長をされていた先生が「顧問」という形でカンファレンスに参加されておられた。このカンファレンスは、私の「内科医」としての「臨床推論」の確認など、大変勉強になることが多く(研修医の教育カンファレンスを兼ねているため)、訪問診療出発ギリギリまで参加させてもらっていたのだが、その中で、その「顧問」の先生が、咽頭所見の取り方について、


「みんな、マグロの赤身やトロ、食べたことあるよね。赤身に比べてトロって、少し赤さが少なくて、紫色寄りの色調になっているよね。のどを見て、『マグロのトロ』の色だったら『正常』、『赤身の色』だったら『発赤あり』と考えると分かりやすいよ」


とおっしゃられた。先生のおっしゃられたとおりである。私は後期研修医時代から、「健康な人」も、「のどが痛い」という人も含めてのどを見て、自分でようやくその境地に立てたのだが、初期研修医の時に、その一言のアドバイスが無ければ、もっと自分の身体所見の取り方に自信が持てたのに、と少し悔しく思ったことがある。この文章を読まれている方の中に、もし、医学生や研修医の方がおられれば、「のどを見て、『トロ』の色は正常、「赤身」の色は『異常』」と覚えておくと絶対役に立つと思うので、心にとどめていただければ、と思う。溶連菌感染症は多くの場合扁桃腫大を伴うが、前述の言葉をとどめておけば、溶連菌感染症での咽頭発赤が「Beefy Red(牛肉のように赤い)」という言葉も納得されると思う。


閑話休題。そんなわけで長男坊の咽頭の診察をするが特記すべき所見はなかった。とはいえ、強い咽頭痛は現状の我が家を考えると危険なサインである。


「あんた、ちょくちょく熱は測ってな。明日(6/11)の朝、コロナの検査をしよう」と伝え、経過観察とした。妻は、それほど自覚症状がないようだった。


そして、6/11の朝、長男君の寝ていたリビング(いつもの寝室は次男君の隔離に使っているので、彼の寝る場所がない)に降りて行った。もともと長男君は鼻炎持ちなのだが、朝、ゴミ箱を見ると、鼻をかんだ後のティッシュペーパーで山盛りとなっていた。普段はここまで鼻水が出ることはない。やはりおかしいと思った。


前日に買い込んだ検査キットを使って検査を行なった。本来ならこのような検体採取の時には、full PPE(完全に防護服を装着すること)が必要なのであるが、一般家庭にはそんなものはない。ということで、不織布マスクとメガネをかけて、検体を採取、検査を行なった。高い確率で「陽性」だろうと踏んでいた(長男と次男、隔離が始まるまでは同じ部屋に寝ていたし)が、検査は陰性だった。しかし、検査キットの性能も100%ではないので、


「今は検査、陰性やったけど、移ってる可能性高いから、一応、食事のとき以外はマスクしといて。症状続いてたら、明日の朝、もう一度検査するから」


と伝え、朝食を食べた。長男君はやはり少ししんどそうで、「寒い」と言って布団に潜り込み、一寝入りして布団から出てくると、体温も38.0度と発熱も見られた。発熱、鼻汁、咳、強い咽頭痛。COVID-19を含めた「風邪症候群」であると考えた。よほどのどが痛かったのだろう。2回程、ティースプーンと懐中電灯を持ってきて、「父、のどを診てほしい」とやってきた。診察するが、2回とも咽頭の発赤はなし、頸部リンパ節の腫脹圧痛もなかった。「やっぱり、所見としては問題になるようなものはないで」と伝え、夕食後にロキソニンを飲んでもらった。


今日は私は仕事が休みなので、朝寝をしたかったのだが、長男君の再検査があるので、いつも通りの時間に起床。彼曰く、「昨日よりは身体は楽」とのことだった。


再度、抗原検査を行なった。発症から48時間近くがたち、さすがに感染していれば「陽性」が出るはずである。そう思ってもう一度検査を行なったが、予想に反して今回も結果は「陰性」だった。インフルエンザの迅速抗原検査も含め、鼻咽頭からのぬぐい液を取って検査をするのはお手の物である。おそらく1万回くらいは行なっているだろう。それで2回とも「陰性」であった。事前確率と、検査の感度、特異度を考えると、それでもCOVID-19を「完全に」否定はできないものの、COVID-19「ではない」可能性は高いと思われた。であれば、本人の体調も元気そうになっており、「休校」させなければならない理由はないと思われた。


「食事の時以外は、絶対にマスク外したらあかんで。授業終わったら、居残り勉強せず、すぐ帰っておいでや」


と注意して登校させた。仮に彼がCOVID-19だったとしても、彼自身がマスクを外さなければ、周囲に感染させるリスクは極めて低い。そういう判断のもと、登校させたわけである。


ただ、彼が「COVID-19」でないとすれば、いったいいつ、何に感染したのだろうか?と不思議ではある。COVID-19の5類化以降、一般の風邪症候群の患者さんも増えている、ということなので、時代の波に乗っただけかもしれない(多分、マスクは付けて電車には乗っているだろうと思っているのだが)。


長男君が登校後、妻は「眠いから」と言って、天岩戸におこもりになられた(怒っているわけではない)。そして私は、次男君の朝食を用意、洗濯物を干し、食事の終わった次男君の食器とお盆を洗いながら、これを書いている次第である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る