第499話 重症熱傷も多くはTalk & Die

非常に残念な事件である。5月に福岡県の美容専門学校で、「親睦行事」として行われたバーベキューで、炭の燃えが悪い班の炭に消毒用アルコールを撒き、そのアルコールに一気に引火し、3人が熱傷、一人が重症熱傷で亡くなる、という事件が起きたそうだ。


亡くなられた方のご冥福をお祈りする。


炭などの火の管理は難しいことが多いが、可燃性の高い液体をかける、というのは極めて危険である。一気に燃焼したり場合によっては「爆発」ということもあり得るからである、


行なうのであれば、うちわか何かを使って、酸素の供給量を多くして燃えやすくしたり、「新聞紙」のような肉眼的にわかるような易燃性の固体を入れて、炭ばさみで空気の通り道を作って、燃やすべきであったと思う。


この記事で、気になったのは「受傷した4人の男性は一人入院となったが、入院時点では普通に会話ができていた」という記載であった。


事件は5/24に発生し、6/6に患者さんは永眠したとのことである。「有毒ガス」などの吸引や、気道熱傷などの特別な合併症が無ければ、熱傷の受傷直後は「元気」であることが多い。ただし、この時点で「元気」ということと、熱傷の重症度とは関連しない(特にアルコールなど、不純物の少ない炭化水素であれば特に)。


アルコールが燃焼していても、残念なことに炎が見えない。学校で使ったアルコールランプが炎を見ることができるのは、「アルコールランプ」の芯の部分も少しずつ燃えており、その微粒子が光っているからである。F1などのカーレースでも、炎に気づかない「引火」ということはよく知られており、ピットインして、給油の際に引火することがほとんどなのだが、本当に炎が見えないのである。引火した場合は、その人は速やかに地面を転がって自ら消火に動くと同時に、周囲の人はそれに気づいたらすぐにその人に放水を開始すること、と決まっている。


記事になっていた記録では、入院した方は、入院後、すぐにICUで集中治療を開始されている。という事は「致命的」な熱傷であることを、発症した際の熱傷範囲から診断していた、という事である。


重症熱傷はこの症例のように、最初は元気だが、どんどん状態が悪化してすることがとても多い。ERなどで、経験のある医師は、「重症熱傷の経過」を知っているので、このような経過をたどったと知ってもそれほど大きな驚きではないが、ご家族にとっては「しゃべって、事故の直後は元気そうだったのに」と、青天の霹靂だったであろうと思われる。


亡くなられた方のご冥福と、ご家族の方の心の傷が少しでも和らぐことを祈っている。

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