第498話 そこまで制限されるものなのか?

数日前、高速バスの運転手が、休憩中にカレーを食べていた、というクレームがついた、ということが話題となった。事の発端は、6/3に高速バスの運転手をしている、という人のツイート。


「バスの運転手がサービスエリアでカレーライスを食べている、というクレーム。休憩中にカレーを食べてはいけない理由を説明しろや!!」


このツイートにはたくさんの「リツイート」「いいね」がついたとのこと。


このツイートに対し、「国際政治学者、社会学者」という人物が真っ向からの反論のツイートをしたそうだ。


「高速バス運転手カレークレームの意味が分からないってのも逆にヤバい。カレーを食うな、ではなくて、飲食という生理現象を客の前で見せるのは無礼、という意味。この感覚を持つ人は少なくない。それが正しいかは別として、少なくない人が持つ感覚は知っておいた方がいい」


とのこと。


個人的な印象だが、この二人の、というか、後者の視点が前者の視点とかみ合っていない、と感じている。もちろん後者のツイートの言わんとすることは理解できる。例えば、安ホテルであっても、チェックインの時にフロントのスタッフがおせんべいを食べながら対応されたら「嫌だ」と思うし、「この人、何を考えているんだろう」と思う人が多数だと思っている。というのも、この場面では、フロントのスタッフは「お客さん」と「接客」をしている最中だからである。後者のツイートをしている人の「飲食という生理現象を客の前で見せるのは無礼」と感じるのは、このような状況の時であろう。


しかし、前者のツイートの状況はそのような「接客」対応中、ではない。高速バスのドライバー、ということで、「観光バスで観光案内中」というわけでもない。A地点からB地点まで、安全かつ迅速にお客さんを移動させることが仕事である。「接客中」でもなければ、「運転業務中」でもないし、別に「運転席」で食べていたわけでもない。「休憩中」に適切な「飲食コーナー」でカレーを食べていただけである。その姿を「わざと」乗客に見せていたわけでもない。よしんば、「運転手」が休憩中に、適切な飲食スペースでカレーを食べていて、「乗客」に何の不利益が出るのか教えていただきたいものだと思っている。


人の行為は、たとえ同じ行為であっても、その人たちが置かれている状況で、「適切」なのか「不適切」なのかが変わってくる。なんばグランド花月で「大笑い」しても何の違和感もないが、親の葬式で「大笑い」していたら、非常に困惑した状況となるわけである。


「場に即した行動」というものを、多くの日本人はある程度の基準としてわきまえているわけである。


なので、後者のツイートの「カレーを食うな、ではなくて、飲食という生理現象を客の前で見せるのは無礼、という意味。」という言葉も、その状況によって意味が変わることを、ツイートした人は理解しなければならない。


まず第一に「飲食という生理現象を客の前で見せるのは無礼」と言っているが、バスの運転手は「カレーを食べる」という行為を「見せた」のか、ということである。食事を取るべき場所で、食事を取っていただけであり、その姿を「見せよう」とも「見てもらおう」とも考えていなかったであろうことは容易に想像可能である。


クレームをつけた人は、逆に敢えてその姿を「見た」わけである。わざわざ「自分」で見に行って、クレームをつけているわけであるから、その前提条件が崩れている。


第二に、「客」という言葉の持つ意味である。例えば、「自分の芸を見に来た人」であったり、行き届いた接客サービス」を求めてそのバスを選択したのであれば、運転手は「配慮が足りなかった」と言われてもしょうがないが、「高速バス」であり、「細やかに行き届いたサービス」ではなく、無事故で時間通りに目的地に着く、ということが最も優先順位の高いことであったはずである。


であれば、休憩中にカレーを食おうが、うどんを食おうが(もちろん飲酒はダメだが)、運転手の自己判断の範囲であり、「食事を取る」という行動を選択するのも、提供すべきサービス「速達性、定時性」の質を低下させるものではない。と考えれば、「過剰サービス」の要求となるだろう。擁護するツイートを書いた人は、その背景を考えなければならないだろう、と思う次第である。


わたしも「カレーを食って何が悪い!」と言いたい派である。

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