第495話 過ちて改めざる、これを過ちと謂う

この数週間、マイナンバーカード関連のトラブルについて、報道が途切れることがない。これまでは「紐付けミス」のほとんどは「ヒューマンエラー」だった。単純な入力間違いや、機械をログアウトせず、そのままで、他の人の情報を入力する、など、一つ一つを見れば、「なんでそんな単純なことを」と思うようなエラーであるが、人間は時にそのようなエラーを行なう生き物である。「医療安全」を考えるうえでも「ヒューマンエラー」は大きな問題で、「医療安全」を考える場合には、「人間はエラーを起こす存在である」という前提で、「ヒューマンエラーが発生しても、患者さんに害を与えないようにするシステムを作る」というのが大原則である。そんなことを以前書いたはずである。


ところが、今日のニュースでは、マイナンバーカードに「家族用口座」が紐づけされていた、などの問題が13万件確認できた、という事であった。これは単純なヒューマンエラーの問題ではなく、利用者のルールの認識不足、窓口での対応の不適切、などなど「システム」として大きな問題があったことを示唆しているわけである。


にもかかわらず、2024年には保険証を全廃し、マイナンバーカードと健康保険情報を紐づけした「マイナ保険証」に移行する、という事が決定され、さらに「あほか!」と思ったことは、2026年度から、「マイナンバーカード」の仕様が変更になる、という事である。せっかく作ったマイナンバーカード、すぐにカードの仕様を変える、というのはどういう了見なのだろうか?


マイナンバーのセキュリティについても疑問を投げかけるようなトラブルも起きており、マイナ保険証についてのトラブルも頻発しているようである。実際に私が外来受診をしたときも、高齢の女性が、「体調が悪くて受診できなかった息子さん」の代理で受診し、薬をもらいに来た、という事があった。これまでなら、保険証を確認し、「家族の代理受診」という形でよかったのだが、「マイナ保険証」を持ってきていたのが災難であった。本人ではないので、顔認証できず、暗証番号はわからない。機械の操作もうまくできないようだったが、受付の人も「すみません、この機械は、マイナンバーカードを持つ本人か、今回のようなお母様しか操作できないんですよ。法律で、私たち事務員がこの機械を代理で操作することはできないんです。すみません」と申し訳なさそうにしていた。


それなりにマイナ保険証も使われてはいるが、「うわぁ、マイナ保険証になってとても便利になったなぁ」と感じることはそれほど多くない。「薬の情報がついている」と思ってみてみても、当院で処方されている薬だけだったり、健診の結果がついている、と言っても当院で行なった市民健診だったりで、情報を印刷した紙が増えても、「おお、これを見落としていた!」と思う事は今のところ経験していない。


孔子曰く「過ちて改めざる 是を過ちと謂う」とのこと。今のマイナンバー行政は誰のための施策なのだろうか?デジタルトランスフォーメーション(DX)と言っても、それで本当の意味での効率化、利便性が図れなければ、意味が無かろう。


国民感情としては、「マイナ保険証」や「マイナ免許証」、そして、2026年度からのマイナンバーカードの仕様変更については、好意的な視線は少ないと思われる。


デジタル庁は孔子の言葉を真剣にとらえるべきであろう。誤っている施策だ、とわかれば、立ち止まらなければならないだろう、と思っている。

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