第492話 急ぐ旅ではなかったはずだが(次男君の卒業旅行3)

翌朝も、スマホのアラームで、6時前に目が覚めた。8時前に出発、と考えれば、それほど早起き、というわけでもない。テレビをつけてニュースを見たりして過ごす。次男君は寝付きにくく起きにくい、という難儀な睡眠習慣を持っている。赤ん坊の時はよく寝る子供だったのだが、不思議なものである。長男君は逆に、赤ん坊のころは寝つきが悪くて、妻が抱っこしたり、私が抱っこしたりして寝付かせるのに苦労したのだが、今では早寝早起き。「深夜が一番楽しい」修学旅行なのだが、長男君は22時ころには「チーン」と一人寝てしまう男になってしまっているそうだ。


7時のニュースを見ながら次男君に声をかける。繰り返し声をかけて、ようやく起床。前日仕入れたパンを食べ、麦茶のデカいボトルから自分の使っているペットボトルにお茶を移し、身支度をして、7:50頃に出発。


ミッションその2は「路面電車で宮島口まで行く」ということだが、残念なことに私の財布の中に、小銭が全くなかった。次男君も、少し朝ごはんが足りなかったようなので、またコンビニに入り、朝食を買って、小銭と千円札をゲット。


歩きながらパンを食べるか、と思いきや、ベンチを見つけて、「座って食べる」という立派な次男。次男君はカレーパン、私はパンケーキを買っていた。セブンイレブンのパンケーキ、昔はもうちょっとメープルシロップも、マーガリンも多かったように思うのだが…。


そんなこんなで、朝食の追加を食べ、路面電車の乗り場に到着。広島の路面電車は縦横無尽に走っており、すごく充実していると感じる。鹿児島も路面電車の街であったが、ここまで充実はしていない。宮島口まで、一人270円。電車が来るのを待つ。


次男君もそうだが、私も小学生の時の修学旅行は広島だった。初日は原爆ドームと平和資料館。そこから路面電車で宮島口→宮島で宿泊し、2日目は宮島観光だったと記憶している。そして、広島駅前の電停(路面電車の停留所)、ひっきりなしに電車が来ていた記憶がある。


しばらく待つと、「宮島口」行きの路面電車がやってきた。日曜日の午前8時過ぎなので、お客さんはそれほど多くはない。二人で無事に座れた。そして路面電車の旅へ。


原爆ドーム前の電停は、本当に原爆ドームの前で、車内から原爆ドームがしっかり見えた。昨日と同じ思いで、ドームに向かって合掌。朝から路面電車の中で変なおっさんである。


宮島口まで、JRを使うと20分程度、路面電車だと1時間20分ほど、と聞いていたが、本当にその通りだった。宮島口につくと9:30過ぎ。自宅で見たガイドブックでは、宮島口にアナゴ弁当とアナゴ丼のお店があり、9時からお弁当はやっている、と書いてあったので、それと思しきお店に声をかけた。


「すみません。お弁当も10時からです」とのこと。ならしょうがない。「わかりました。ありがとうございました」と伝えて、JR宮島フェリー乗り場へ。往復切符を買って桟橋でフェリーが来るのを待つ。フェリーは10分間隔とのこと。


「昔は、青函連絡船、宇高連絡船、宮島フェリーが国鉄の管轄やったから、この3つは青春18きっぷで乗れたけど、連絡船はどちらも無くなったから、18きっぷで乗れる船、これだけやねんで」と次男に言う。「うん、知ってるよ」と次男君。いつの間にか鉄分の濃い目な奴になっていたようだ。


フェリーなど、船に乗ると短時間でも旅情がわく。鹿児島時代に「桜島フェリー」に何度も乗ったが、たとえ10分の乗船でも、「船」というだけで旅する気分で満たされる。


宮島口→宮島への航路は、厳島神社の大鳥居が見やすいような航路を取っている。とはいえ、これはわざとそうしているわけではなく、船の航路は右側通行。宮島口のフェリー乗り場から見て、宮島のフェリー乗り場の右側に大鳥居があるので、船のルールに従っているだけのことである。とはいえ、大鳥居が見えると気分は上がる。そういえば小学生の時、修学旅行に持ってきてはいけない「ゲームウォッチ」を持ってきて胸ポケットに入れていた友人。海を眺めていた時に、ポケットからゲームウォッチが落っこちて、海にポチャン、となったなぁ、と思い出した。


宮島にフェリーが着くと、もう宮島にはたくさんの人が。さすが観光の島である。


船着場から、厳島神社に向かって歩を進める。時にシカの写真を撮ったりした。観光客の人、やはりカップルも多いなぁ。でも、ご家族連れや、海外からの方、ツアー客の方々、いろんな人が訪れていた。


そして厳島神社へ。思わず「大人二人」と言いかけたが、よく考えたら、次男君は高校生だった。慌てて「大人一人、高校生一人」と言い直す。100円儲けた。そして、厳島神社へ。


うんと小さいころ、実父、母と3人で、そして修学旅行で、そして今回と3回目の訪問。次男君は写真を撮りまくっている。


何故だか、厳島神社を見学中に軽いめまいを感じ始めた。疲れが出たか?


次男君が満足するまで厳島神社を回り、そして海を見ながら少し休憩。少し次男君の未来について話をする。私の経験談も語る。少しでも私の経験が役に立ってくれれば。


旅慣れた人や、女性なら、宮島観光を楽しむのだろうが、旅慣れない、しかも男二人。ミッション・コンプリートとなれば、もうすることがなくなってしまう。


「ほな、また帰ろうか」と言ってフェリー乗り場に戻る。もちろん、「帰る」という選択を次男君がしてくれた理由の一つは、私の体調不良を心配してくれて、のことだが。


それでも、1時間半ほどは宮島に滞在していただろうか?


本州側に戻り、先ほどは逃したアナゴ弁当を2つ購入する。4000円以上の支払いだった。小さなお弁当二つでこの値段。確か小学校の修学旅行で、お昼ごはんにアナゴ弁当を食べて、とてもおいしかった記憶がある。それで今回のミッションにもアナゴ弁当を入れていたのだが。これで、当初の計画「お好み焼きを食べる」「路面電車に乗る」「厳島神社に行く」「アナゴ弁当を食べる」はほぼミッション・コンプリート。あとは広島市内へ、JRで戻るだけだ、と思った。さすがに帰りも1時間20分はきつかろう、と思ったのだが、次男君は、


「なぁ、父。俺、帰りも路面電車で帰りたい」と。何ですと?


とはいえ、時間はかかるが、お金は路面電車の方が安い。しかも、私の体調不良で少し早めに戻ってきたのである。次男君のせっかくの提案。乗らないわけがない(だって彼の卒業旅行だし)。


ということで、帰りも路面電車にした。やはり日曜日の日中、路面電車の混雑すること。ラッシュアワーのバスで「中にお詰めください」と聞くことはあるが、日中の路面電車で、繰り返しそのアナウンスを聞くとは思わなかった。これだけ混んでいれば、広島電鉄(路面電車の会社)、儲かっているだろう。路面電車も廃止されることはなかろう。


ということで、広島駅まで戻ってきた。あとはお土産を買って、新幹線に乗って帰るだけである。


そんなわけで、24時間足らずの広島旅行を終えた。次男君は「楽しかった」と言ってくれたので、広島旅行は収穫があったといえよう。小学校の卒業旅行、高校生まで引きずってしまったが、ようやく「年ごろ思ひつること 果たしはべりぬ」である。

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