第491話 広島に嫌われてる?(次男君との卒業旅行2)

続きです。


その困ったことは、台風2号と、6/2に全国を襲った豪雨であった。6/3は、関西地方は晴れていたが、中部、関東は豪雨による大きなダメージを受けていて、東海道新幹線がほとんど動いていなかった。午後からは動き始めるが、名古屋駅ではとんでもない混雑となっていた。


その日、その場で新幹線の切符を買えばいいや、と思っていたが、午後のワクチン外来を終えて、JR東海のホームページで東海道・山陽新幹線の運行状況(山陽新幹線はJR東海ではなくJR西日本の管轄だが、JR西日本のサイトを見ても、新幹線の運行状況をクリックするとJR東海のサイトに飛ぶ)を確認すると、やはり随分大変なことになっていた(6/4、帰宅後に、ニュースで6/3の名古屋駅の惨状を見て驚いた次第)。そんなわけで、仕事を終えると大急ぎで自宅に帰り、次男君に声をかけて出かけることにした(以前も書いたが、今のところ我が家では、車の運転は私しかしないので、私が鉄道で出かけるときは、私は歩いて駅に向かわなければならない)。


JR西日本のホームページでも、「新大阪駅は大混雑しているので、新幹線の切符は最寄り駅で購入してください」と書いてあった。なので、最寄り駅で切符と新幹線の指定席、特急券を購入した。自動券売機の表示は、「のぞみ」と「さくら」が表示されていたが、「新大阪駅発」なのは確実なので「さくら」の指定席を購入した。そして新大阪駅に向かう。


新大阪駅は確かに大混乱。それでも、読み通り「さくら」は「定刻発車」となっていた。よし、俺。Good Job!と誰もほめてくれないので、心の中で自分で自分を褒めた。次男君と一緒にホームに上がり、列車に乗り込む。


「いやぁ、新幹線、大混乱やのに、定刻発車の「さくら」にしていてよかったねぇ」と次男君と話していると発車。ちょうど発車したところで、次男君が「あっ、俺、腕時計忘れた!」と。「まぁ、俺が持っているから大丈夫や」と私が伝え、またしばらくすると「あっ!俺、パンツ持ってくるの忘れた!」と。「昨日から、『着替え、ちゃんと用意しとき』って言うてたやろ」と私が伝える。そしてしばらくすると今度は私が「あっ!俺、薬忘れた」と。服用中の薬、忘れてはいけない(先日、継父のところに行ったとき、定期薬を忘れた影響か、一睡もできなかったので)、と思っていたのだが、慌てて家を出たので、すっかり忘れていた。欠かすのはよろしくない薬なのでちょっとブルーになった。「ほら、父も忘れ物してるやん」と次男からの指摘。「お互い、間抜けよのう」と次男に返した。


列車は定刻通りに次の新神戸駅に到着。定刻に発車した。多くの人がご存じの通り、新神戸駅は山と山に挟まれた立地である。博多方向を向いて左側は神戸の街が一望できるが、右側は山肌しか見えない。駅の前後もすぐトンネルである。見事に山と山の隙間につくられた駅である。


定刻通りに列車は発車し、どんどん加速を始めた、かと思いきや突然急減速。トンネル内で停車してしまった。車内放送からは「現在、列車は停止しています。原因が分かり次第報告いたします」とのこと。仮に列車から火が出ていれば、トンネルの中で停車していると有毒ガスに巻かれて死んでしまう、と、ちょっと身構えると、また車内アナウンスで「急停車は、本列車のトラブルではありません。ご安心ください。原因については分かり次第お知らせします」とのことだった。それなら待たざるを得ない。


しばらくしてまた車内アナウンスが。「当列車発車後、新神戸駅で緊急列車停止信号が発令されたため、停止いたしました。安全が確認でき次第、発車の予定です」とのことだった。対向ホームにも列車が止まっていたため、この列車の発車時に何かあったのか、向こうの列車発車時に何かあったのか、どちらかは不明であるが、なかなか、新幹線で「緊急停止」は経験がない。


次男君からは、「父、今日は新幹線、ボロボロやし、俺ら、忘れもんいっぱいしてくるし、挙句にここで緊急停止やし、なんか『広島に嫌われてない?』」との発言が。確かに、なぜかわからないが、少なくとも「スムーズ」ではない。とはいえ、「定時発」の列車に乗れた、というのはラッキーだし、好かれているのだか、嫌われているのだか…?


結局8分ほどで列車は再出発。その後は8分遅れで順調に広島に到着した。


6月は夏至もあり、1年の中でも日が長い。福山を出てから広島まで、ちょうど夕日が沈み、空は深い青、あるいは紺色というのだろうか、空に向かってグラデーションがかかり、山の稜線に沿ってわずかに夕日の赤い色がわずかに残っている。このような空はどこかで見たことがあるなぁ、と思っていた。しばらく記憶をたどると、高校時代のことだと思い出した。継父の会社に勤務していたインドからの留学生が、インドの国立大学日本語学科の准教授になった、ということで、日本の書籍をいっぱい携えて、会社全員でインドに行ったことがある。その時に継父にくっついて私もインドに連れて行ってもらったのだが、トランジットでバンコク発コルカタ行きの飛行機の窓から見えていた空であった。雲の稜線に沿って夕日の赤みがわずかに残り、薄い白線を挟んで深い青のグラデーションが続いていた。飛行機は西に向かって飛ぶので、空の模様はほとんど変わらなかった。そうだ、あの時の空の色だ、と思い出しながら、空を見ていた。


広島についた時刻はちょうど20時ころ、レストランはどこも混んでいる時間である。「本当の名店」は「駅ビル」に入っていることはないが、「駅ビル」の中の店が、「大外れ」ということもないので、駅ビルの中のお好み焼き屋さんに入ることとした。エスカレーターのすぐそばの店は大行列。しかし、少し奥まったところの店は3組待ち程度だった。なので、そちらの店でお好み焼きを食べることとした。名前を書いて、20分ほど待っただろうか。その間にメニューを見ておく。お好み焼きで一番高いものには、カキが入っているが、私はあまりカキが好きではない。なので、一番安い、オーソドックスなものに決めた。次男君も「それにする」とのこと。名前を呼ばれ、店に入り、お好み焼きを1枚ずつ注文した。


店はそれなりに繁盛。男同士でお酒も入っていないとなれば、親父と息子、話がポンポンと弾むわけでもない。斜め前のテレビを見るともなく見ながら、お好み焼きが来るのを待っていた。


関西風のお好み焼きは、ほぼすべての具材が小麦粉で固められているので、ひっくり返しやすく、自宅でも作りやすいのだが、広島風のお好み焼きは、薄く焼いた小麦粉の上に、たくさんのキャベツ、そば、肉が層をなして、それを卵の上にひっくり返して乗せて一体化させるので、何より「ひっくり返す」ことがとても難しい。昔、実家のすぐそばで、ご近所のおばちゃんが、広島風お好み焼きのお店を開いたが、おばちゃんの見事な技、今でもおいしい味とともに覚えている。


そんなわけでお好み焼きが届く。食べなれていないせいか、どうしてもキャベツの層で上下に分かれてしまう。そんなわけで、別れたキャベツの層に、お好み焼きソースとマヨネーズを追加して食べる。「おいしい!」。横で次男君も「おいしい!」と喜んで食べている。長男君はマヨネーズが大の苦手なので、私と次男君、キャベツにソースとマヨネーズを乗せて食べながら、「キャベツに、ソースとマヨネーズのコンビネーション。こんなにうまいの、お兄ちゃんは食べられなくて残念やなぁ」と二人で笑う。


とりあえず、一枚食べれば、ミッションは一つコンプリート!観光客料金で腹いっぱい食べられるほど、手持ちがあるわけではなかったので、食べ終わり店を出た。当然、次男君も私も腹五分くらい。ホテルに向かう途中のコンビニで、翌日の朝食と一緒に、夜食も買い込んで宿に向かう。


広島も川の街。ホテルは駅から川を渡ったところにある。大きな川にかかった橋を渡る。水面にはきれいな月が写っていた。穏やかな川の流れだ。でも、70年以上前のあの日、この川には、たくさんの亡くなった人が流れていたのだろう。「世界が平和でありますように。あの悲劇が二度と起こりませんように」と川と月に向かって手を合わせた。


ホテルにも無事にチェックインし、とりあえず、今日のミッションは終了。普段はつけないテレビを見ながら、二人でベッドで寝転ぶ。学会などでビジネスホテルに泊まるときは、いつもテレビを見てダラダラしている私なので、「シャワーを浴びろ」だのなんだのという資格は私にはない。二人で夜食を食べてダラダラとテレビを見ていた。名古屋駅の惨状を見て二人ともびっくり。「まだ、新大阪駅は平和でよかったよなぁ」と考えを改めた。眠気が差してきたので、「明日は8時前にはホテルを出るで」と次男君に伝えて、眠りについた。


薬が無くても、いつものビジネスホテル宿泊程度には眠ることができた。次男君も適当に電気を消して眠っていた。


まだ続きます。

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