第488話 衛生管理者/衛生推進者は何をやってるのだ?

ソースは京都新聞、Yahoo Japanのサイトより


<以下引用>

 滋賀県甲賀広域行政組合消防本部が2021年5月、新型コロナワクチン未接種者の30代職員について「拒否者」と称した文書を全職員に回覧していたことが分かった。文書は匿名だが、職員が特定できるようになっていた。  


同本部によると、職員はインフルエンザワクチン接種で副反応が出たことを理由に同年4月、コロナワクチン接種をしないと申告。本部は、顧問弁護士と相談し、コロナ感染症拡大防止のため職員の同意を得た上で、執務席を他職員と離れた場所に移動した。


本部は同5月13日付で職員を「接種拒否者」として所属や執務席を記した上で、接触を避けるよう要請した文書を全職員に回覧したという。職員は同8月末に依願退職した。  


国は未接種者を差別しないよう求めている。本部は「当時の事情から業務上必要以上の接触を避けるための措置は問題ないと考える。ただ、職員への心情には配慮が足りなかったかもしれない」としている。

<引用終了>


救急救命士も所属し、それなりに医学的知識のある人員がいる職場でこのようなことが起こるとは、がっくりであるorz。


消防本部であり、構造がどのようになっていたのかは不明であるが、防護服で身を固めるとはいえ、救急隊員の感染リスクはありうるだろうし、隊員を介して、該当者への感染のリスクはあるだろうとは推測される。


しかしながら、COVID-19ワクチンは当初から、「予防効果は95%」と、100%の予防効果を謳っていたわけではない。ワクチンを打っても罹る人は罹る、打たなくても罹らない人は罹らないわけである。


執務席を他の職員と分けた、という事については「本人の同意を得て」という事であり、ヤイヤイいう事ではないのかもしれないが、それでもやはりおかしいと思う。ワクチン接種の有無で感染の確率は大きく変わるのかもしれないが、それでも当該職員が「悪性腫瘍治療中による高度の免疫不全」などでもない限り、マスクの装着で当該者だけを「話す」必要はなかっただろう。むしろ「感染」という事を考えれば、全職員の執務席を「間隔をあけて」配置し、当該者も同様の対応を取るべきだったのでは、と思われる。


回覧については「何をか言わんや」である。本来なら、「ワクチン未接種者との接触は避けること」ではなく、「ワクチン未接種者のいる職場なので、全員が手洗いマスクなど、感染拡大を予防する措置を講じて、所内での感染拡大を防ぐよう努力すること」とすべきであろう。このような「感染者」あるいは「感染リスクの高い人」をある種差別的に扱うような風潮を感じることがそれなりに多く、うんざり+がっくりすることが多い。


COVID-19の流行前は、冬季の「インフルエンザ」がその標的となっていた。インフルエンザワクチンは体質的に接種できない人(私もその一人)がちらほらといること、ワクチンを接種していても罹患する人は珍しくないことから、「ワクチン未接種者」に対する『差別的対応』を見聞する、という事は記憶に残ってはいないが、軽微な症状にもかかわらず「会社から『検査をしてから出ないと出社してはいけない、と言われました」とか、「感染していないことの診断書を出してください」などの訴えで外来を受診する人は決して少なくはなかった。


COVID-19抗原検査キットと同様に、インフルエンザ抗原検査キットも、陽性の結果を得るためにはある程度のウイルス量が必要である。なので、発症直後に受診された場合、検査が陰性になることは非常に多かった。ある程度結果に信頼をもって説明できるためには、発症12~24時間後(できれば遅めの方が良い)が適切なタイミングだと考えられている。これはおおよそ一般的な内科医の共通認識と考えている(研修も含め、複数の病院で仕事をしたことがあるが、職場がどこでも、スタッフのこの認識は同じであった)。


医者側が、そのような認識でいるのに、「会社の決まり事だから」と言って、不適切なタイミングで疑い患者さんを受診させているのは誰なのか??と、いつもそのような患者さんが来るたびに半分は怒りとうんざり感、半分は本当に興味があってそう思っていた。


10人以上49人未満の事業所では衛生推進者を、50人以上の事業所では衛生管理者を置くことが労働安全衛生法で規定されている。20人以上の事業所で「産業医」を置くことも同法律で規定されている。「産業医」はもちろん医師なので言うまでもないだろうが、「衛生管理者」「衛生推進者」はその資格がないものはその職に就けないので、その資格を持っている、という事は「教育を受けてきた」という事を意味している。


という事を考えると、「発症したらすぐ抗原検査」とか、「かかっていないことの証明を求める」などの職場ルール、いったい誰が決めているんだろう、と診察室に座り、診療を続けながら、腹を立てていた。


そのような決め事は本来(安全)衛生委員会(安全管理者を交えた「安全委員会」と、衛生管理者を交えた「衛生委員会」は同時開催ができ、その場合は「安全衛生委員会」と呼ばれるので、括弧をつけた)で決めるべきことで、そこには産業医も参加することになっている。なので、(安全)衛生委員会がそのルールを決定した、という事であれば、その決定に産業医もかかわっていることになる。(安全)衛生委員会の決定、という事であればしょうがないが、検査の限界を知る者にとっては「がっくり」である。


そうではなくて、上司、あるいは会社の上層部の判断、という事であれば、「衛生委員会がブレーキを掛けないとあかんやろう」と思う。たぶん、「症状が出たからすぐ検査」とか、「陰性の証明」なんて訳の分からないことを言うのは、その辺りの事情に詳しくない人の発想だと思うので、おそらく、「上層部からの指示」という事になっているのだろうなぁ、と思っている。


そういう方には、ほとんどの場合「診断書」が必要となるので、有症状ですぐに「会社から検査を」と言われて受診された方には「〇月✕日、症状を訴え当院を受診された。インフルエンザ抗原検査の施行を依頼され、検査を行なったが結果は陰性であった。検査を希望されたが、検査のタイミングとしては不適切と思われ、今回の検査で「陰性」であることはインフルエンザに罹患していないことを意味するものではない。以下余白」と書き、陰性の証明を求められた方には、「〇月✕日、インフルエンザ迅速抗原検査を希望され受診された。検査を行ない「陰性」であったが、迅速抗原検査「陰性」は「インフルエンザに罹患していない」ことを意味するものではない。以下余白」と書いていた。そうとしか書きようがないからである。


COVID-19はしばらく2類感染症だったので、このような無意味な診断書を書かずに済んでいたのだが、これからはインフルエンザに加えて、COVID-19でも同じようになるのか、と思うと、微妙につらい。何とかならないものだろうか、と20年近く悩む次第である。

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